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後宮に巣くうモノ
高いものにつきました
しおりを挟む「最近、仕事の効率がよいと思わぬか?」
夜、ご機嫌で苑楊は言った。
「はあ、そうですね。
洋蘭様のところに行かれるために、なにもかもお急ぎですからね」
と言ったあとで、李常は深く溜息をついて言う。
「お妃様方に嫌味を言われるのは私なのですけどね」
洋蘭に夢中で、後宮にまるで足を向けない苑楊に対する不満を、妃たちは李常にぶつけているようだった。
「普段、お前が袖の下などもらって、いい顔しているのが悪いのだ。
向こうも金を払った以上、自分のために立ち回ってくれねば割に合わないと思っていることだろうよ」
「高いものにつきました……」
李常は、ほとほと困った、と言う顔をしている。
よほど妃たちに文句を言われているのだろう。
だが、すぐに、
「そうだ。
緑妃様はもう下賜されてはいかがですか?」
などと言い出す。
「まだまずいだろう。
というか、何故だ」
「……高貴な笑顔のまま圧がすごいのです」
「お前に文句を言ってくるのは、主に緑妃なのか?」
「桜妃様もです。
逆らいがたい、春の女神のような笑顔で、陛下をこちらに寄越せと迫ってきます」
「陶妃は?」
「陶妃様は私では埒が明かないと思ったのか。
太皇太后様に近づき、なんとかしてもらおうとしているようです」
「ほう。
皇太后ではなく、太皇太后にな」
「この城で誰が一番偉いのか、よくわかっておいでなのでしょう」
と李常は不敬なことを言う。
実質的な権力を握っている者、という意味では、今、この城で一番偉いのは、皇帝ではない。
一番目はもちろん、太皇太后。
二番目は、皇太后。
皇帝はその次だ。
後宮を生き抜いてきた女たちは、したたかで。
男たちは誰も敵わない。
だから、父も自由を求め、いなくなってしまったのだろう。
――幸い、皇后は今のところおとなしいが。
あれも長く後宮にいたら、どうなるかわからんな、と苑楊は危ぶんでいた。
「よし、では、お師匠様の講義でも受けに行くか」
と適当なことを言い、苑楊は今日も封じられし宮殿に向かう。
いや、これだけ夜な夜な人が立ち入っていては、どの辺が封じられているのかよくわからないのだが……。
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