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後宮に巣くうモノ
なにもかも怖いんだが……
しおりを挟む忙しい苑楊と別れ、桂徹にペコペコされながら、洋蘭たちはそこから離れた。
皇后の住まいに戻る林杏とも途中で別れる。
別れ際、もちろん、釘を刺された。
「洋蘭。
許可なく、あちこちフラフラしないで」
とその辺の刺客より鋭い目で。
梅花が、
「そうだ。
桜妃様が美味しい菓子があるから、洋蘭に暇なとき来るように言えって言われて、牢を訪れたんだったわ。
この間の歌を歌って欲しいらしいの」
と言い出す。
……桜妃様の菓子って怖いんだが。
なにか入ってそうで、とか思いながら歩いていると、軽やかな……だが、なにか含んだところのある笑い声が聞こえてきた。
見ると、花園で桜妃と緑妃がお茶をしている。
この二人が楽しげに歓談しているとか、恐怖だな。
どんな刺客や暴漢に襲われたときよりも、遥かに怖い、と洋蘭は怯える。
たぶん、後宮内の情報をお互い出せる範囲内で交換し合っているだけなのだろうが。
桜妃が先にこちらに気づいたようだった。
「あら、洋蘭。
殺されたんじゃなかったの?」
外の皆様にお見せするやさしい微笑みで、そんなことを言ってくる。
あの、表情と話の内容が合っていませんが……。
「今、陛下を巻き込んでの大騒ぎがあったそうじゃないの」
と言う緑妃も笑顔だったが。
こちらは単に、退屈な後宮の生活に飽き、なにか事件があったのなら、聞きたい、という感じだった。
洋蘭が先程の騒動の話せるところだけ、話そうとしたとき、梅花が手を打ち、言った。
「そうだ。
やっぱり、陛下は洋蘭を妃に迎えるそうですよ」
そういえば、妃の座、まだ空いてますよね、という梅花の言葉に、桜妃たちが眉をひそめて、わめく。
「妃の座どころか、下の位もいっぱい空いてるわよっ。
なんで下女が妃になるのよっ」
「そうよ、洋蘭っ。
下っ端からやりなさいよっ」
「……下っ端からやるのなら、私が後宮に入ってもいいのですか?」
と二人に問うと、
「どうせ、あなた、何処からか現れては、陛下の関心を引こうとするんでしょう?
だったら、いっそ後宮に入って、私たちの管理下で、存分に虐げられなさいよっ」
と言い出す。
「いやですよう、そんな後宮に入るの」
と言いながらも、美味しく菓子をいただいた。
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