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後宮に巣くうモノ
皇太后の教え
しおりを挟む皇太后が命じて、その日本のマカロンを載せた皿を侍女の一人が持ってきた。
だが、あっ、と躓き、マカロンを飛ばしてしまう。
皇太后が一瞬、鬼神のような顔をするのが洋蘭には見えた。
ひっ、やはり、この人は怒らせてはならないっ、と思う。
「もっ、申し訳ございませんっ」
と侍女が慌てて頭を下げる。
幸い、飛んだのは端に載っていたひとつだけで、それは、洋蘭の膝の上に落ちていた。
「いいのよ、大丈夫。
いただくわ」
と洋蘭は微笑み、それを口に入れた。
さくり、と茶色い楕円の焼き菓子を噛む。
「これはこれで美味しいですね。
何故か、落花生の味がしますが」
「アーモンドの粉が手に入りにくいから、落花生の粉を使っているらしいわ」
「日本人というのは、島国の中で、いろいろと工夫こらしているものなのですね」
洋蘭はそう言ったあとで、まだ心配そうにこちらを見ている侍女に微笑みかけ、
「ありがとう。
美味しかったわ」
と礼を言う。
「あ、ありがとうございますっ。
申し訳ございませんでした、洋蘭様っ」
侍女は感激の涙を流しながら、礼をし、急いでその場を去っていった。
慌てて消えていったのは、気の変わった皇太后に処罰されないためだろう。
案の定、皇太后は侍女の消えた方を見ながら言う。
「ほんとうにあなたはやさしいわね。
……あなたのおかげで、あの子を罰せられなかったじゃないの」
ご不満そうだ。
はは、と洋蘭がごまかすように笑ったとき、皇太后がこちらを見て言った。
「洋蘭。
やさしいのはいいことだけれど。
ここで生き抜くには、それだけでは駄目なのよ」
では、よそに行きたいです、と洋蘭が思ったとき、皇太后は手近にあった布を洋蘭に渡し、言う。
「まあ、そんなあなただから、私も目をかけているのだけれどね。
暇なときに、あなたもこれでなにか縫いなさい。
できたら私に見せてちょうだい。
ああ、自分で縫うのよ。
林杏や桜妃の侍女たちに、上手いこと言ってやらせては駄目よ」
ひっ、あれから、桜妃の侍女たちと仲良くしていることまでご存じでっ?
ほんと、この人の情報網怖いな、と思いながら、
「では、ありがたく……」
ともにょもにょ言いながら、洋蘭は、その立派な青い布を預かり、立ち上がった。
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