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後宮に巣くうモノ

神獣が見たいです

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 金色の輿に乗っている女性の衣服も冠もピカピカしている。

 太陽の光が当たった金色の眩しさに、洋蘭は目をしばたたき、

 ……夜明けかと思った、と呑気なことを考えていたのだか、梅花は慌てる。

 洋蘭の腕を引き、座らせようとする。

「洋蘭、早くひざまずいてっ。
 太皇太后様よっ。

 かなり遠くからひざまずいてないと、罰を受けるわ」

 先々代の皇帝の皇后だ。

 みな、怯えるように深く頭を下げ、太皇太后の乗った輿が通り過ぎるのを待つ。

 かなり遠ざかったところで、ようやく梅花が頭を上げたので、洋蘭も少し遅れて上げた。

「皇太后様も怖いけど。
 太皇太后様はそれ以上よ。

 あの目で見られたら、即死しそう」

「……メデューサみたいね」
と洋蘭は呟いて、

「なに、メデューサって」
と言われる。

 メデューサの説明をしている間、林杏が遠くからこちらを見ていたが。

 そのまま行ってしまう。

 可愛い顔をしているが、油断なく辺りを窺う鋭い瞳。

 趙登は林杏が気に入っているようだけど。

 どんなところが気に入っているんだろうな? と洋蘭は思った。

 見た目の可愛さ?

 それとも、あの隙のないところ?

 趙登はああ見えて、実生活では抜けてそうだから、林杏みたいな相手がいいのかもしれないけど。

 林杏はどうかな?

 幼くして、先帝の後宮に妃の世話のために上がった林杏は、後宮が代替わりしても残っているくらい、この仕事が気に入っているようだし。

 今すぐやめて、嫁に行くとか、なさそうだなあ。

 そんなことを考えていた洋蘭に、太皇太后が去って、笑顔になった梅花が訊いてきた。

「ねえ、洋蘭。
 異国で見聞きした面白い話とかないの?」

「ああ、異国の話ではないんだけど。
 この国の北の方の湖には、白と黒の愛らしい神獣が水を飲みに現れるらしいわ。

 見てみたい。
 どんな感じなのかしら」

「神獣なんでしょ?
 人前に出てくるの?」

 などと話しながら、二人で牢のある宮殿まで歩いた。



「白黒の神獣の話は私も聞いたことがあるな」

 夜、宮殿を訪ねてきた苑楊に昼間の話をすると、そんなことを言う。

「お前が見たいのなら、いつか連れて行ってやろう」
と牢の前の廊下に立つ苑楊は機嫌良く言うが。

「大丈夫です。
 自分で見に行きます」
と洋蘭は言った。

「……お前のそういうところは可愛くないな。
 そして、ほんとうに、自分で勝手に見に行ってしまいそうなところも可愛くない」

「可愛くないのなら、わざわざ構いに来てくださならくていいのですよ」
と言ったが、真正面から苑楊は洋蘭を見つめ、

「いや、構いたい」
と言う。

 なんなんですか。
 そんなにじっと見ないでください。

 さすがに照れるではないですか、と思ったとき、格子の向こうから、

「苑楊」
と師匠の声がした。

 ひっ、と誰もいないと思っていた苑楊や李常たちは息を呑み、

 皇帝陛下に『苑楊』とは無礼なっ、という余裕もなかったようだ。

 よく考えたら、牢の中に囚人がいないわけはないのだが。

 ……いや、ほんとうのところ、いないことも結構あるのだが。

 ともかく、気配を感じなかったので、油断していたらしい。

「この城にはたくさん、神獣がおるではないか。
 生きてはおらぬが」
と師匠が笑う。

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