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封印されし宮殿

侵入者を捕らえました

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 外に出た洋蘭は赤い塀の前で、辺りを窺っている若い侍女の姿を見た。

 あれは、例の梅花とかいう、桜妃様の侍女。

「なにをしているの?」
と洋蘭が声をかけると、梅花は心臓が止まったような顔し、

 いやああああああっ、とこの世の終わりのような悲鳴を上げた。

 ……マンドラゴラを引き抜いたら、こんな叫び声を上げるだろうかな、と思いながら、洋蘭はその様子を腕組みして眺めていた。

「あっ、あんたはっ!
 生きてんのか死んでんのかわかんないくせに、陛下に『恐怖』の花言葉を贈られて口説かれてた下女っ」

「それ、口説かれてる感じ、しませんよね……」
と洋蘭は呟く。

「梅花様。
 迂闊うかつにここに立ち入られない方がいいですよ。

 ここは封じられし宮殿。
 立ち入るものみな、即死します」

 自分より背の低い梅花を見下ろし、洋蘭はそう言い切る。

 だが、梅花は怯えながらも必死に言い返してきた。

「いや、あんた生きてるじゃないのっ」

「私は囚人様のお世話係だからいいのです。

 ところで、なにをしにここに来られましたか。

 その理由、言わないのなら、この……」
と洋蘭はちょうど日に当てようと外に出していたマンドラゴラの鉢をひょいと抱える。

「引き抜いたときの叫び声を聞いたら死ぬという、マンドラゴラを引き抜きますよ」

「いや、だから、それ、あんたも死ぬんじゃ……

 って、それっ!」

 マンドラゴラーッ!
と鉢を指差し、梅花は叫ぶ。



 洋蘭は梅花を引っ捕らえ、縄で縛って桜妃の宮殿に突き出すことにした。

 途中で別の侍衛じえいと話している趙登ちょうとうと出会い、ぎょっと見られたが、趙登は、特に、

「なにをやってるんだ」
とも突っ込んでは来なかった。

 桜妃の宮殿には簡単に入れた。

 なにせ、桜妃の侍女を連れているのだから、止めようもない。

 ええっ!?
という顔をしている長花の前を通り、桜妃がいると聞いた部屋の扉を押し上げる。

「桜妃様。
 お宅のマンドラゴラ、お返ししますよ」

 梅花をつないでいる縄をつかんだまま、洋蘭は言った。

「お前はっ」
と洋蘭の顔を見て、叫んだ桜妃だったが。

「……マンドラゴラ?」
いぶかしげに訊き返してくる。

 洋蘭は梅花を見下ろし言った。

「いや~、この方、私を見て、マンドラゴラ並みのすごい悲鳴を上げられたので。
 いえ、私もマンドラゴラの悲鳴はまだ聞いたことないのですけどね」

 それを聞いて桜妃は儚げな顔に似合わぬ舌打ちをすると、

「なんというみっともない。
 私の侍女ともあろうものが。

 そんな生き恥をさらすくらいなら、その場で舌噛み切って死になさいっ」
と梅花を罵る。

 そんなあ、という顔をした梅花を見て、
「いや、待って」
と桜妃は言った。

「お茶を淹れるのは、梅花が一番上手いわ。
 たまに作って食べさせてくれる故郷の菓子とやらも美味しいわね」

 茶と菓子のために、桜妃は思いとどまったようだ。

 そんな妃と侍女のやりとりを見ながら、まだ縄をつかんだまま、洋蘭は言う。

「あの、なんでもいいんですけど。
 勝手に封印されている宮殿に入ってこないでください。

 呪われますよ」


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