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封印されし宮殿
ほんとうに怪しいのは、誰?
しおりを挟む洋蘭は無事に菓子を桜妃からだと言って、緑妃に届けた。
緑妃の宮殿は質実剛健、と言った感じだったが、緑妃の趣味の良さを感じる調度品ばかりだった。
「では、失礼致します」
と洋蘭は帰ろうとしたが、
「待ちなさい」
と緑妃に止められる。
「これは本当に桜妃さまからなの?」
緑妃は首を傾げている。
怪しい桜妃からの贈り物。
かなり警戒しながら受けっていたようだが。
銀の針で毒を調べても、なにも出ないし。
毒味係が食べても、なにも起こらなかったので、何故、私に、わざわざ桜妃が贈り物を? と訝しく思ったようだった。
まあ、調べてもなにも出るはずもない。
洋蘭たちが普通の菓子とすり替えているのだから。
だが、これが最初に渡すように頼まれた菓子だとしても、毒が入っていたわけではないし。
すぐになにかが起きるわけでもないので、どのみち、この場ではわからなかったことだろうが。
そもそも、あれを緑妃が口にしたところで。
花園で陛下を招いた茶会が行われる頃、異様にお腹の調子が良くなり、おつうじが訪れる、というだけの話だし。
普通に菓子を受け取り、食べた緑妃は、
「私に取り入ろうというのかしら?」
と小首を傾げながらも、桜妃にお礼の品を返したという。
そして、夕暮れどきには、美しく灯りで彩られた花園で緑妃主催の茶会が滞りなく催され。
陛下も楽しまれた、ということだった。
「どういうことなの。
毒ではないから、食べさせても罪には問われないし。
程よくお腹を壊すだけだと言ってたじゃないのっ」
緑妃の茶会が無事成功したことを聞いた桜妃は古参の侍女、長花に向かって憤慨しながら、そう訊いた。
「あの侍女はほんとうにちゃんと緑妃に、あれを届けたのっ?」
すると、外で話を聞いてきた若い侍女、梅花が慌てて駆け込んで来て言う。
「桜妃さまっ。
あの封じられし宮殿に囚人などおりませぬそうです。
いえ、昔はいたらしいのですが。
それはあの宮殿ができた頃の話で。
とても、今でも生きているとは思えないそうで。
なので、その者の世話をする侍女などというのも、存在しないかと――」
「じゃあ、あの娘は誰なのよっ」
「そうですねえ。
侍女たちの服装はそれぞれ、仕える妃に合わせて、統一してありますしね。
そういえば、あの娘が着ていたような白い衣は見たことがないですね」
と言う長花に、
「……怖いこと言わないでよ」
と桜妃は怯える。
侍女なんて、この古く広い城内のあちこちで、たくさん殺されている。
ちょっと妃たちの機嫌を損ねたら、簡単に処罰されたり、拷問されたりし。
運が悪ければ、そのまま死んでしまうからだ。
「きっとあれは、かつていた妃の侍女で、毒味係をしていて、死んでしまったのですわ。
それで、自分と同じ目に遭う者が出ないよう、薬草入りの菓子を運ばなかったのではないですか?」
と梅花が恐ろしげに言い出す。
「莫迦なこと言わないでっ。
この話はもうしないでちょうだいっ。
そんなことより、結局、緑妃はその後、陛下の夜のお相手を勤めたの? どうなのっ?」
「いえ、陛下は茶会を楽しまれたあと、お酒も召し上がられずに、すぐに戻られたようです」
そう、と桜妃は、ホッとしながらも、不安にもなっていた。
なかなかに美しい茶会だったと聞く。
夕空に、艶やかな色合いの雲が棚引く、花薫る庭園。
灯りに照らし出された白い緑妃の顔は、この上もなく美しかったことだろう。
彼女は自分の見せ方をよくわかっている。
敵であるがゆえに、緑妃の美しさを冷静に分析している桜妃は小首をかしげて言った。
「そこまでして気に入らないのなら、あの陛下にはなにをすればいいと言うの?」
「桜妃様」
と長花は声を落として言う。
「もしや、陛下は女性に興味がないのではないですか?
ほら、いつも、美丈夫の趙登を側に置いておられるではないですか」
すると、梅花が、
「あら、意外と李常様かもしれませんよ。
いつも陛下の側にいらっしゃるではないですか」
と言い出した。
「李常様は駄目でしょう。
李常様は」
となにが駄目なのか、長花はそう繰り返す。
苑楊と李常の組み合わせでは、なにかが彼女の趣味に合わないようだった。
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