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封印されし宮殿
戦闘のはじまりです
しおりを挟むそれぞれの一団の先頭の者が鼻を突き合わせたまま動かない。
どちらも道を譲らないようだ。
苑楊の妃、二人は輿の上からお互いの顔を見つめたまま、どっちも頭を下げなかった。
淡い透けるような衣をまとっている桜妃は普段は花のように微笑んでいるのだろう。
だが、今は笑ってはいなかった。
厚地のしっかりした布に見事な刺繍がほどこされた衣をまとっている陶妃は、いつも理知的な瞳で陛下に微笑みかけたりするのだろう。
だが、今は笑ってはいなかった。
先に口を開いたのは、桜妃の方だった。
「相変わらず、色気の欠片もないお召し物ですこと」
その嘲るような口調に、何故か李常が衝撃を受けているようだった。
「あなたこそ、下町の娼婦じゃあるまいし。
なんなの、いつも、そんな透け透けの服を着て。
品がないったら、ありゃしない。
そもそも、私の方が先に陛下の後宮に入ったのよ。
あなた、道を開けなさいよ」
「なんですって。
蛮族の娘のくせにっ。
しかも、あなた、私より半日早く入っただけじゃないのっ。
あなたこそ、道を開けなさいよっ」
後宮は、決してケモノの住処のような無秩序なところではない。
そう主張する苑楊たちが、それを証明するために、洋蘭をここまで連れて来たはずなのだが。
むしろ、ここ、ケモノしかいないっ、と全員で震える。
バチバチに睨み合っている二人はそのまま動きそうにもなかった。
一番奥の宦官が、反対側に抜けられそうだと言うので。
みな、それに従い、そっと小さな通路を抜けて、二人の妃の許から遠ざかろうとする。
苑楊が小声で指示を出した。
「声を上げるなよ。
見つかるな。
こんな袋小路に追い詰められたら、誰も逃げられぬ」
苑楊の頭の中では、あの妃二人は血に飢えたライオンかなにかみたいになっているようで。
気づかれたら、殺られるっ、と思っているようだった。
いや、お二人とも、あなたのお妃様ではないのですか。
あなたが抑えてくださいよっ、と洋蘭は思っていたが。
女同士の争いに首を突っ込めるような男はこの世にはいない。
洋蘭は大人数が動くせいで、乾いた土埃の舞い上がっている狭い通路を進んでいった。
洋蘭の後ろで、李常がまだ震えている。
「あのおやさしい桜妃様まであのようになるとはっ。
わたくし、見なくていいものまで見てしまいましたっ」
「私もですっ」
と趙登も怯える。
宦官としては最高権力者になる李常や、美形で苑楊の側近くに仕えている趙登には、桜妃は普段はやさしいのだろう。
「女の花園の秘密は不用意に覗かぬ方が良いということですね」
と洋蘭は呟く。
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