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封印されし宮殿
変装してみます
しおりを挟む陛下は私を通して、お師匠様を見ていらっしゃるのでは?
と言われてしまった苑楊は、いや、待て待て待て、と洋蘭を止めた。
「何故、そうなる。
同じ内容でも、お前のような可愛らしい娘が語るから魅力的なのであって。
ジジイが古い話を語っても、それはジジイだから知ってるだろうな、で終わりだろ。
そもそも、話の内容を気に入るたび、その知識を伝えた人間を好きになるのなら。
本を読むたび、作者のジジイを好きになってしまうではないか」
だが、それを聞いた洋蘭はちょっと考えたあとで、
「陛下、作者がおじいさんとは限りませんよ。
美少年かもしれません」
と言う。
「……美少年だったら、なにかいいことがあるのか」
と凄むように睨んでしまった。
「ともかくお前は、後宮は、なんか恐ろしいところだ、と思っているのだろう?
では、私と後宮を見て回るというのはどうだ?」
そう苑楊は洋蘭に提案してみた。
「えっ? 陛下とですか?
そんなの、お妃様がたに目の敵にされてしまうではないですか」
「誰もそのままの格好で、ついていこいなどと言っていない。
女だとわからぬよう、変装して私についてくればよいではないか。
そうして、客観的に眺めてみれば、後宮は、決してケモノの住処のような無秩序なところではないとわかることだろう」
「そうです」
と横から李常が援護射撃してくれる。
「しっかりした皇后様のもと、他の貴妃さまがたの統制も充分とれている後宮です。
まだ新しくできたばかりですし。
それぞれのお妃様同士の間に深い怨念も因縁も、今ならまだないと思います。
洋蘭。
いや、洋蘭様、一度覗いてみられるのもいいと思いますが」
だが、洋蘭は、
「……そうですか?
今の後宮、ほんとうに、そんなに平和ですか?」
と懐疑的だった。
女性は女性同士の争いに敏感だからかもしれない。
「そうだな。
宦官の格好でもして、この行列の間に入ってみるか」
と苑楊は、いつも自分に付き従っている長い行列を振り返る。
「はあ、それだと顔もよく見えませんし。
いいかもしれませんね」
そう洋蘭が頷いたので、苑楊は、早速、宦官の装束や帽子を持ってこさせた。
「では、身支度を整えて参ります」
と洋蘭はその衣装を手に頭を下げる。
そのまま、封印されし宮殿へと扉を開けて入っていってしまった。
「……この宮殿は、どの辺が封印されてるんだろうな」
確かに封印がしてある扉の方が多いのだが。
普通に開く扉もある。
ふたたび、その扉が開いて、洋蘭がひょいと顔を覗けた。
「陛下、ついでにマンドラゴラ、ご覧になりますか?」
「そうか。
では、見せてもらおうか」
と苑楊もそちらに行き、李常もつづいた。
「なんか入り放題ですね……」
と呟きながら。
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