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封印されし宮殿

ちょっぴり成長した陛下

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 迂闊に皇帝陛下に情を抱いて。

 愛憎うずまく後宮の騒動に巻き込まれるなんてごめんだ。

 そんなことを洋蘭が思っているとき。

 李常は若き皇帝、苑楊を我が子のように見守っていた。

 恋には不器用な苑楊だが、今、照れながらも、洋蘭を褒めようとしている。

「闇夜に輝くお前の瞳は、まるであれだな……」

 『星を映したようにきらめいておる』とかですかね?
と李常が思ったとき、苑楊が言った。

「まるで、あれを垂らした瞳のようだ」

 涙ですかな?

 なかなか詩的なことをおっしゃる。

「ほら、あれだよ。
 垂らすと、キラキラするではないか。

 異国の娘が使うという――」

 そのとき、洋蘭がポン、と笑顔で手を打った。

「わかりましたっ。
 毒草ベラドンナの汁ですねっ」

 いや、娘よ。
 そんな話なわけないであろう、と李常は思ったが、苑楊は、

「そう、それだっ」
と身を乗り出す。

「毒草の汁を目に落とすと、瞳孔が開いて瞳が輝くという。
 そんな感じに美しいぞ、お前の瞳はっ」

 いや、そんな褒め方で、何処の乙女が喜ぶというんですか、と李常は思っていたが。

 洋蘭は、
「ありがとうございますっ」
と言ったあとで、身を乗り出して言う。

「陛下、陛下。
 ベラドンナと同じ作用のある毒草なら、春になると、そこの茂みの辺りによく生えているそうですよっ」

「なにっ? そうなのかっ?」

「迂闊に教えると、後宮の皆様が押し寄せそうなので、どうかご内密に。

 ちなみに、お師匠様が大事にしておられる、異国の旅人からもらった植物があるのですが。

 マンドラゴラとかいう。

 あれにも同じ薬効があるそうでございます」

 二人が楽しく語らうのを見ながら、李常は呟いた。

「なんだろう。
 似合いの二人に見えるな。

 外見だけの話ではなく……」

 可愛らしい顔をした侍衛じえい趙登ちょうとうが、はは……と苦笑いしていた。

「牢屋の番をしていてる娘が皇后になるなどと、あるはずもないのだが。
 何故だろうな、趙登。

 私には、あの娘が皇后となり、陛下とああして騒ぎ合っている幻が見えるよ」



 話が一段落落ち着いたところで、苑楊は洋蘭に向かい言っていた。

「私はお前と話が合うようだ。
 やはり、ぜひ、後宮に入ってはくれないだろうか」

「陛下、ここで少し話すだけで良いとおっしゃったではないですか」

「お前のような物知りの娘が私は好きなのだ」

「私の物知り具合がお好きだとおっしゃるのなら、陛下がお好きなのは、牢のお師匠様なのでは?」
と洋蘭は言い出した。

「私の知識はお師匠様から教わったものです。
 ということは、陛下は私を通して、お師匠様を見ていらっしゃるのではないでしょうか」

「……待て。
 何故、私が牢のジジイに恋をせねばならぬのだ」

 陛下はまた、なにやら言いくるめられようとしているようだ……。

 そう思いながら、李常は二人を眺めていた。


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