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ふたたび、旅に出ました
冒険に出てみました。いや、目的地は目の前ですが……
しおりを挟む結局、未悠たちは、リチャードを先頭にタモン、未悠、アドルフ、そして、リチャードの連れ二人とで城に向かっていた。
深い森の先、とは言っても、途中までの道の木々の枝が分厚く重なって鬱蒼としているだけで、塔自体は、わりとすぐそこにある。
なので、かなり呑気な感じにしゃべりながら塔へと向かっていると、先頭を歩いていたリチャードが、ふいに振り向き、言ってきた。
「貴様らっ、何故、一列に並ぶっ」
アリのように長い列を作り、全員が歩いていたからだ。
タモンは、
「いや、お前がついて来いというから、お前の後ろを付いて歩いていただけだが」
と言い、未悠は、
「いや、昔、おじさんに借りたゲームの影響で。
冒険に出るときは、縦一列かと」
と言い、アドルフは、
「未悠が縦に並ぶから」
と言い、残りの者たちは、
「みんなが一列に並ぶから」
と学校で叱られるときに、先生に言ったら、ほぼ百パーセント怒られるであろう言い訳をした。
「別にいいじゃないですか、縦一列でも。
みんなで並んでいかなきゃ、怖いとかいうわけでもないでしょ?」
と未悠がリチャードに言うと、
「まあ、そういうわけでもないが。
なにせ、魔王の城だからな。
一応、緊張するじゃないか」
とその図体に似合わぬことを言ってくる。
いや、その魔王は貴方の真後ろに居るんだが……。
これ、いきなり襲いかかるような気力もない人だしな、と思っていると、リチャードが、
「そういえば、リコが来てないが、何処行った?」
と今更ながらに言い出した。
「何処かで、ご婦人方に囲まれてるんじゃないですかー?」
とリチャードの連れが言ってくる。
きちんと盛装したリコは元々整った顔をしているせいもあり、ご婦人方に大人気だ。
「いや、確か、エリザベートと、なにやらコソコソ話していたようだぞ」
とタモンが言い出した。
「あの男、何処かの王族の血筋の人間のようだな」
二人の話を聞いていたのか、そう言ってきたタモンに、未悠は、ああ、やっぱりな、と思っていた。
別に驚きはない。
城に入ってからは、特に、そんなような気がしていたからだ。
あの場に馴染み過ぎているというか。
生まれ育った場所はよかったのだろうなと思うだけの品格がリコにはあったから。
そのとき、前方の茂みが、ガサガザッと音を立てた。
子鹿が、ぴゅっと飛び出してきたと思ったら、それを追いかけるように矢が飛んできた。
リチャードのすぐ近くの木に刺さる。
「むっ。
魔王の手下の攻撃かっ?」
とリチャードは剣を構えたが、
「いや、手下が、魔王の居る方角に向かって矢を放ったら、クーデターだろ」
とアドルフが言い、タモンは、
「私に手下など居ない」
としょぼいことを言っていた。
すると、ガサガサと弓を手にした大柄な男が茂みから現れた。
バスラーだ。
「どちらに行かれるんですかな」
とバスラー公爵が訊いてきた。
これから魔王の城の探索に魔王を連れていくのだとアドルフに説明を受けたバスラーは、
「魔王とは?」
とリチャードを見る。
なんとなく魔王っぽいからだろう。
だが、リチャードはタモンを手で示し、
「この方が魔王様ですが」
と紹介した。
ほう、とバスラーは言ったが、特に意外そうでもなかった。
「そうでしたか。
どうりで。
初めてお見かけしたときから、並々ならぬ気品のある方だなと思っておりました」
などと言っている。
いや、魔王って気品があるものなのか? と未悠は疑問に思っていたが。
しかし、わりと細かいことを気にしない男だな、バスラー。
意外に器がデカそうだから、シーラと似合いかもな、とシーラに殴られそうなことを考えていると、バスラーは、
「しかし、冒険とは楽しそうですな。
私も混ぜていただきたいものですな」
と言ってきた。
目的地が城のすぐそこ。
しかも、魔王がこちら側に居ると知った気安さからか。
それとも、たまには、シーラによるストレスから解放されたいのか。
バスラーはそんなことを言ってくる。
列に混ざったバスラーの楽しそうな様子を見ながら、未悠は思っていた。
しかし、男って、冒険好きだな、と。
私は、少々不安なんだが。
数々の目撃証言から考えても、城には、なにかが居る気がする。
この呑気な魔王みたいな奴ならいいんだが、とタモンを窺っていると、アドルフが後ろから訊いてきた。
「どうした? 未悠」
「いえ、ちょっと嫌な予感が」
そう小声で言ったあとで、アドルフを振り向く。
「でも、大丈夫ですよ、アドルフ様。
アドルフ様は、私がお守りしますから」
と言って、
「……いや、逆だろう」
と言われてしまったが。
何故、お前が俺を守るか、未悠、と思いながら、アドルフは未悠の後ろをついて歩いていた。
そんなに俺は情けないだろうか。
確かに未悠の前では、一度もいいところを見せてはいないが……。
そんなアドルフの胸には、今、ひとつの野望があった。
そろそろ、未悠に呼び捨てにして欲しい、という野望が。
旅というほどでもない旅だが。
此処で少しはいいところを見せて、未悠との距離を縮め、『アドルフ様』ではなく、『アドルフ』と呼んで欲しいと願っていた。
こちらが強制しても、また元に戻ってしまいそうだからな、とアドルフは、ラドミールに言ったら、冷ややかに見られて、
「平和ですねえ……」
と言われそうな野望を抱いていた。
「っていうか、王妃様が戻られて、やっぱり貴方たち、兄妹だったわ。
ああ、私、離婚することにしたから、とか、かまされたら、どうすんですか」
妄想の中のラドミールは普段より辛辣だったが。
ありえない話でもないところが、恐ろしいところだった。
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