上 下
89 / 127
お城に帰ってきました

そこの者共、あの者共

しおりを挟む
 

「未悠っ」

 王妃が玄関ホールから居なくなったあと、顔を上げた未悠は、階段をこちらに向かい、駆け下りてくるシリオに気がついた。

 うわっ、と慌てて避ける。

 未悠に避けられ、シリオはリチャードに抱きついていた。

 その様子を見ながら、アドルフが、
「まだ暗示は解けてなかったようだな……。
 まあ、一日やそこらじゃな」
と呟く。

 だが、めげずにシリオは未悠の手を握りにやってきた。

「未悠っ。
 会いたかったぞっ」

「気のせいです」

 アドルフは勝手に返事しながら、シリオが未悠にそれ以上近づかないよう、彼の額に手をやり、押し返してた。

「会いたかったぞっ」

「気のせいです」

 なにやってんだろうな、と思っていると、今度はエリザベートが階段を下りてきた。

「未悠、部屋に戻って着替えなさい。
 そこの者共も、私の指示に従い、着替えなさい」

 階段途中で、リチャードたちを見下ろし、そう言う。

 ……似てるな、この人、王妃様と。

 さすが親友、と思いながら、この城では、誰より恐ろしい人なので、素直に従った。




 使用人たちに手伝ってもらい、着替えた未悠は、大広間に向かった。

 みんなが居ると聞いたからだ。

 すると、なんだかわからないが、リコがやたらモテている。

 まあ……整った顔してるしな。

 ちゃんとした格好をすると、その意外な品の良さが際立つし。

 シリオのようなマントを身につけたリコは、まるで、何処かの貴公子というか、吟遊詩人というか。

 すす、といつの間にか側に来てエリザベートが訊いてくる。

「何者ですか、あの男」

 その視線はリコを見ていた。

「本人は盗賊だと言い張ってるんですけど。
 妙に品がいいんですよね」
と未悠が言うと、

「お妃様が、あの男のことは特別扱いしろと申しておりました」
と言ってくる。

 特別扱いねえ、と思いながら、エリザベートの顔を見、笑うと、

「どうしたのです?」
と訊かれる。

「いえ、ずっと街中に居たもので。
 此処の匂いが懐かしいなと思って」

 エリザベートが側に来ると、みんなの香水やなにかの混ざったようないい香りがほんのりとした。

 城の匂いだなあ、と未悠は思う。

 街中も楽しいが。

 もっと雑多なものの混ざった匂いがするから。

 そして、その城の匂いを既に懐かしく感じるようになっている自分が不思議だった。

 まるで、此処が自分の居場所であるかのように。

「しかし、短い旅でしたね。
 持ち帰ったものは多いようですが」
とエリザベートはリコたちを見ながら眉をひそめ、言ってくる。

 はあ、すみません……と思っていると、リチャードたちが広間に入ってきた。

 何故か甲冑を身につけている。

「あれは……」
と言うと、彼らの支度を手伝ったらしいラドミールが、

「すみません。
 ちゃんとした服を用意していたのですが、あの者共が、あれを着てみたいと申しまして」
と言ってくる。

 だが、目つきが鋭く、体格のいいリチャードたちが甲冑を身にまとうと、まるで将軍のような威厳があった。

 ほう、と横でエリザベートが頷く。

 もしや、意外と好みなのか? ああいうタイプが。

 タモン様とは全然違うようだが、と未悠が思っていると、リチャードがこちらに挨拶に来た。

 ちゃんと未悠とエリザベートの前に跪き、騎士のように礼をする。

「いかがですかな。
 私が殺した何処ぞの騎士と同じようにしてみましたぞ」
と笑顔でロクでもないことを言ってくるが、そこのところ、エリザベートはスルーだった。

「未悠様たちが世話になりました。
 王妃様がゆっくりしていくようにと仰せです」

 ありがたき幸せ、とリチャードはエリザベートの手を取り、その甲に口づける。

 エリザベートが少し赤くなったように見えた。

 ……熟女殺しだな、と思いながら眺めていると、他の女性たちも、まあ、男らしい人が、という視線で、リチャードを見ている。

 リコはともかく、リチャードがモテるとは意外だな、と思っていると、貴族の女性のひとりが、
「まあ、まるで将軍のようね」
とリチャードを評して言い出した。

 よく見れば、近くに本物の将軍が居る。

 立派な軍服を着、勲章をつけた彼は、渋い顔をしていた。

 怒っているというより、落ち込んでいるようだ。

 彼は頭脳派なのか、少しひょろっとしていて、体格は明らかに、リチャードの方がよかった。

「将軍」
とアドルフが将軍の側に行き、肩を叩く。

「大丈夫だ。
 将軍というのは、血筋でなるものだ。

 お前を置いて、他にない」

 はっ、ありがたき幸せっ、と感激したように、将軍はかしこまるが。

 いや……それ、褒められているのですかね? と苦笑いしながら、未悠はそのやりとりを眺めていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩
恋愛
東の果ての国の赴任先で夫が病気と聞き、大陸横断鉄道の二等列車に乗り込もうとするメイリン・エドワーズ大使夫人。駅の受付で個室が取れない中、男爵夫人アイリーン・ブルックスに同室を申し込まれる。彼女は先頃夫である男爵を亡くしたばかりだった。一週間がところかかる長い列車の旅の中、メイリンはアイリーンの、新聞沙汰にもなった一連の話を聞くこととなる。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

屋根裏部屋令嬢が幸せになるまで~陰謀に巻き込まれて死にかけたましたが、奇跡的に生還して陰謀を暴きます~

御峰。
恋愛
子爵家令嬢エリシアは妹のセーナに目の敵にされ、陰謀に巻き込まれ父親から屋敷のみすぼらしい屋根裏部屋で生活するように命じられる。 屋根裏部屋の生活始まってからエリシアは、何とか脱出出来たが、助けに来てくれた婚約者でもある王国の第三王子マシューから婚約破棄を言い渡され、死薬を飲まされる。 死んだと思われたエリシアは城外に捨てられたのだが、命からがらに生き伸びて、知識を頼りに死薬を克服して生き残る。 その時、同じ苦境の被害者リアムと出会い、助ける事で急速に仲を深めていくが、リアムと深まる中で事件の裏に潜む恐ろしい計画を知る事になる。 二人は力を合わせて再起を目指し奮闘する。 これはエリシア令嬢と被害者リアムの奇跡的な出会いから始まったラブストーリーである。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...