69 / 127
……帰って来てしまいました
……泣きますよ
しおりを挟む「……なんだって?」
と未悠の言葉に、アドルフは訊き返してきた。
未悠はアドルフを間近に見上げて言う。
「お妃様が直接、王様に訊いても、真実はわからないと思います」
はい。
私、他所で浮気して子どもを作ってまいりましたとペラッと白状する男がこの世に居るとは思えない。
「私がお会いして確かめてまいります。
真実、私が王の娘であるならば、王も私には本当のことを話すでしょう」
未悠、とすぐにでも出て行きそうな未悠の腕をつかみ、アドルフは呼び止める。
「待て。
私となにもないまま行くな」
……どうなんですかね、このお兄さんは。
いや、本当に兄だかは知らないが――。
「途中で野盗にでも襲われたらどうする?
こんなことなら、先に私に襲われておけばよかったと後悔するのではないか?」
そんな得体の知れない後悔はしないと思いますね……と思いながらも未悠は彼を振り返った。
王子という恵まれすぎた立場に生まれ育ったせいかもしれないが。
本当に言葉の不器用な人だな、と。
さっきから、一人称が私になってるし。
感情でしゃべっているように見えて、そうでもないのかもれしないな、と思う。
冷静になってみても、なにもいい案が浮かばず、訳のわからないことを言っているのだろう。
困った次期王様だ。
この国は大丈夫か? と思いながら、未悠は、ぽんぽんとアドルフの腕を叩く。
「大丈夫です。
なんとかなります」
社長に自分がお前の兄かもしれないと言われてショックを受けたばかりなので、この手の衝撃にはちょっと耐性があった。
……いや、何故か今回の方が衝撃が強いような気はしているのだが。
「未悠、必ずしも真実を確かめなければならないということはないのだぞ」
と事勿れ主義的なことを言ってくるアドルフに、
「そうなんですけど。
一生、もやっとしたまま生きていくのも嫌なので。
アドルフ様」
そう呼びかけたあと、未悠は軽くアドルフに口づけた。
少し赤くなり、言う。
「……こういうことを自分からするのは初めてです。
だから、おとなしくしててください」
正直、まだ、本当に彼のことが好きなのかはわからないが、今、もっとも気になる人であるのは確かだ。
「必ず、帰ります」
と言ったあとで、未悠は小首を傾げ、
「こういうセリフはよくないですよね」
と呟いた。
「我々の世界では、死亡フラグが立つって言うんですよ」
「なんだそれは?」
と問われ、
「必ず帰るとか、帰ったら結婚しようとか言う人間は死ぬ確率が高いんです」
と答える。
いや、ドラマやゲームの中での話だが、と思いながらそう言うと、
「わかった」
とアドルフは頷いた。
未悠の手を取り言ってくる。
「未悠、帰ってくるな」
いや、それはちょっと……。
「二度と顔も見たくない」
本心でないとわかっていても、結構傷つきますよ。
「お前のことなんか愛してないから……。
絶対に、私の許へは戻ってくるな」
そう言いながら、アドルフは未悠の背中に手を回し、抱き締める。
いや、ちょっとそれは……泣きますよ。
違う意味で、と思っている未悠の耳許で、アドルフの声が囁いた。
「生まれてから今までで、一番お前が嫌いだ」
そう言って、さっきの自分の、激突か!? というようなキスではなく。
本当にやさしく、そっとキスしてきた。
離れたあとで、自分を見つめ、アドルフは言う。
「未悠……。
本当に二度と顔を見せるなよ」
いや、真顔で言われると、ほんっと、傷つくので、その辺でやめてください……と思っていた。
1
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する
江戸川ばた散歩
恋愛
東の果ての国の赴任先で夫が病気と聞き、大陸横断鉄道の二等列車に乗り込もうとするメイリン・エドワーズ大使夫人。駅の受付で個室が取れない中、男爵夫人アイリーン・ブルックスに同室を申し込まれる。彼女は先頃夫である男爵を亡くしたばかりだった。一週間がところかかる長い列車の旅の中、メイリンはアイリーンの、新聞沙汰にもなった一連の話を聞くこととなる。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~
夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】
「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」
アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。
理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。
もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。
自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。
王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると
「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」
オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが……
アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。
そして今日も大きなあの声が聞こえる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
と
屋根裏部屋令嬢が幸せになるまで~陰謀に巻き込まれて死にかけたましたが、奇跡的に生還して陰謀を暴きます~
御峰。
恋愛
子爵家令嬢エリシアは妹のセーナに目の敵にされ、陰謀に巻き込まれ父親から屋敷のみすぼらしい屋根裏部屋で生活するように命じられる。
屋根裏部屋の生活始まってからエリシアは、何とか脱出出来たが、助けに来てくれた婚約者でもある王国の第三王子マシューから婚約破棄を言い渡され、死薬を飲まされる。
死んだと思われたエリシアは城外に捨てられたのだが、命からがらに生き伸びて、知識を頼りに死薬を克服して生き残る。
その時、同じ苦境の被害者リアムと出会い、助ける事で急速に仲を深めていくが、リアムと深まる中で事件の裏に潜む恐ろしい計画を知る事になる。
二人は力を合わせて再起を目指し奮闘する。
これはエリシア令嬢と被害者リアムの奇跡的な出会いから始まったラブストーリーである。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
貧乏神と呼ばれて虐げられていた私でしたが、お屋敷を追い出されたあとは幼馴染のお兄様に溺愛されています
柚木ゆず
恋愛
「シャーリィっ、なにもかもお前のせいだ! この貧乏神め!!」
私には生まれつき周りの金運を下げてしまう体質があるとされ、とても裕福だったフェルティール子爵家の総資産を3分の1にしてしまった元凶と言われ続けました。
その体質にお父様達が気付いた8歳の時から――10年前から私の日常は一変し、物置部屋が自室となって社交界にも出してもらえず……。ついには今日、一切の悪影響がなく家族の縁を切れるタイミングになるや、私はお屋敷から追い出されてしまいました。
ですが、そんな私に――
「大丈夫、何も心配はいらない。俺と一緒に暮らそう」
ワズリエア子爵家の、ノラン様。大好きな幼馴染のお兄様が、手を差し伸べてくださったのでした。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる