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襲われたのには理由があります

祀りの終わりに

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 そして、神は天と地に還り、神楽は終わった。

 祝詞をあげた清春が船を囲っていたしめ縄を切り、海に流す。

 神様はお帰りになり、祀りは終わったのだ。

 ……いや、人がいっぱいやって来たり、縁日が立ったりするのは明日だけど。

 みんなで船を片付け、漁船は移動し始めた。

 バラバラと人が帰り始める。

 深月たちは浜に降り、その光景を眺めていた。

 やっと終わった、という気持ちと。

 一抹の寂しさと。

 そんな深月たちの横で、おじさんたちが言っていた。

「船長の言うとおり、省略せずに神事をやったせいかな。
 今回の大祭はなにか降りてきた気がしたな」

 それを聞いた陽太が祭りの場から去りゆく人々を見つめながら、深月に言う。

「俺は願いが叶わなかったときから、神様なんて信じないようにしていたが。

 今日は神が降りてきたと思った。

 考えてみれば、人類が長い歴史の中で、あれだけ祈りを捧げ続けたんだ。

 例え、もともと、この世に神というものが居なくとも。

 こうして繰り返される人々の祈りの力で、きっと神は産まれてる――」

 そう言い、手を握った陽太は、

「で、」
と深月を振り向き、言ってきた。

「みんなの気持ちはひとつになったが、俺とお前の気持ちはどうだ?」

 いやいやいや、改めてそれ、訊きますか?
と深月は赤くなる。

「いやまあ、そうですね。

 ……うん。

 ……私たちの気持ちも同じ感じになってるかもしれないですね」
と照れもあって、誤魔化すような告白をしたあとで、深月は言った。

「でも、ほんと、今年はなにか降りてきたと思いました」

 すかさず、
「巫女は穢れていたのにな」
と言われ、

「……だから、穢れてなかったじゃないですか」
と言うと、

「でも、俺に夢中で神様のことなんて考えてなかったんだろ」
と言われる。

「いや、だから、それもまた、人類の営みのうえで、大切なことだなって……」
ともごもご言うと、

「つまりは俺と結ばれて、子孫を増やし、人類繁栄を願おうと思ったってことだな。
 さあ、増やそう」
と陽太は深月の手をつなぎ直す。

 さっきまで、恋人同士な握り方だったのに、完全に連行される感じの握り方になっていた。

「待ってくださいっ。
 なんでですかっ」
と船に引きずって行かれながら、深月は踏ん張る。

「だって、祭り終わったろ」

「お神楽がですっ。
 まだ明日までありますよっ」

「お前ももう終わったって言ったじゃないか」

「いやいやいや。
 私の出番が終わっただけですからっ。

 離してください~っ。

 さっきまで硬派な感じで格好よかったのになんなんですかっ。

 祭りにはいろんなところからいろんな人が来ていますっ。

 酒宴の流れで、何処の誰だかわかんない人も家に来てたりするしっ」
と深月は踏ん張りながら、早速、その辺の客たちを巻き込んで酒盛りを始めるおじさんたちを見た。

「その中に、神様も来てるのかもしれないと私は思うんですよ。

 神様が貴方のこの無礼千万な行いも見てますよーっ」
と叫んだとき、深月の手をつかんだまま、道の方を見ていた陽太が言った。

「そうだな。
 確かに、人ならぬ珍しいものとか来てるのかもしれないな。

 ……あそこに忍者も来ている」

 えっ? と深月は顔をあげた。

 が、忍者らしき扮装の人は何処にも居ない。

「騙しましたね」
と振り向いたが、陽太は、

「莫迦。
 いまどき、忍者が忍者の格好してたら、目立つだろうが」
と言う。

「いや、あの格好、当時でも目立ったと思いますけど……」

 そう深月が言ったとき、
「高岡さん」
と陽太が手を挙げた。

 高岡が忍者なのかと思ったら違った。

 彼の側にダーク系のスーツを着た男と、可愛らしい女の人とびっくりするくらい綺麗な顔をした男の人が立っていた。


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