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襲われたのには理由があります

そこは初耳なんですけど……

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「お前、船長と結婚するつもりか」

 深月が答えないでいると、

「なんでだ。
 ずっとお前を好きだったのは俺なのに。

 ずっとお前を守ってきたのは俺なのに」

 そう言い、清春は深月を抱く手に力を込める。

 逃げなきゃと思うのに、ずっと身内として暮らしてきたせいか。

 何処かで信用してしまっていて。

 深月は逃げずに、ただ清春の顔を見上げていた。

「俺がずっと守ってきたのに……。

 C組の村木からも。
 俺のクラスの新田からも」

「……ちょっと待って。
 それは初耳。

 新田って、あの清ちゃんの次に格好いいとか言われてた新田先輩?」

「その新田だが。
 誰であろうと俺の目の黒いうちはお前には指一本触れさせない」

 いろんな意味で困った兄だったんだなと今、初めて知った……。

「清ちゃん、……私、船長……

 支社長……

 よ、陽太さんが好きみたいなの」

「……せめて一発で言え」

 いや、なにかまだこう、名前では呼びづらくて、と深月は思っていた。

「支社長だし、最初は絶対ないと思ってたんだけど。
 でも、気がついたら、いつも側に居てくれて。

 いつの間にかずっと一緒に居るのが当たり前みたいになってた」

「それは俺だって同じだろう?
 ずっとお前の側に居て。

 これからもずっとお前の側に居る」

 でも……と言いよどむ深月の腕をつかみ、清春は言う。

「船長が好きなんです。
 ああそうかで終わると思っているのか。

 俺はずっとお前だけを見つめていたのに」

「清ちゃん……」

「親が再婚するとき、すぐに賛成したのも、これでずっとお前と暮らせると思ったからだ」

 そう言いながら、清春が強く深月を抱きしめたとき、

「ついに正体あらわしたわねっ」
という声とともに、蔵の戸が開け放たれた。

「深月っ、清春から離れなさいよっ」

 いや、逆っ、
と万理を見た深月を万理はさらに罵る。

「この泥棒猫っ!」

 いやっ、貴女、そもそも他の方の奥さんですしっ!

 そして、正体あらわしたのは兄の方です!

 この人の目は初恋で曇っている!

 そう深月が思ったとき、万理の後ろから陽太が現れた。

「清春、深月を離せ」

 月を背に陽太が言う。

「嫌だ。
 なに突然現れて、簡単に深月を持っていこうとしてるんだ」

「……全然簡単じゃなかったぞ」

 戸口に手をかけた陽太がどさくさ紛れに深月に文句を言ってくる。

「深月が今まで清らかでいられたのは、俺が守ってきたからだ。
 俺にこいつのすべての初めてを奪う権利があるっ!」

「馬鹿め。
 単に誰にも言い寄らなかっただけだろう」

 うっ、手痛い真実を……。

 深月は清春と陽太の応酬を聞きながら思っていた。

 あの~、支社長。
 本当に私のこと、好きですか……?

 いっそ、清ちゃん側につきたくなるな。

「いいぞ、やれやれー」

 外で面白がっているみんなは、深月たちを眺めながら、酒を飲んでいる。

「ツマミは?」

「腹減ったな」

「あーっ!
 それは明日、参拝者の人たちに出す煮物ーっ」
と揉める声が聞こえ、やがて、炊き出しが始まったようだった。



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