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襲われたのには理由があります
思い出の場所だからな
しおりを挟む陽太は深月をあのベッドに放ると、深月の上に乗り、顔を見つめ言ってきた。
「やっぱり、最初は此処がいいな」
え、えーと……。
「思い出の場所だからな。
……なにもしなかった思い出の場所だが」
と恨みがましく言ってくる。
陽太は逃げ腰な深月の肩を手で押さえ、そっとこめかみにキスしてきた。
深月の髪の香りを嗅ぐように顔を近づけて言う。
「しまったな。
今日こそ、高岡さんに乗船してもらえばよかった」
「えっ?
な、なんでですかっ?」
このようなところは人様に見られたくないのですがっ、と思いながら、深月は言ったが。
「誰かに見ててもらわないと、止められなくなりそうだからだ。
お前と約束したのに」
と言いながら、陽太は深月の身体に手を回し、抱きしめてくる。
陽太の匂いと体温に、深月は思っていた。
こんな風にぎゅと抱きしめられるの、お母さん以来な気がするな、と。
今までずっと赤の他人として生きてきたのに、なんだか不思議だ。
小さな頃、親に見守られ、無条件に愛されてたときみたいに、すごく大事にされてる気がして、ちょっと涙が出そうだと思った。
だから、深月も抱き返してみた。
もらったものを返すように。
「支社長」
「陽太」
「よ、……陽太さん。
あの……。
……す」
好きです、と言うべきだと思った。
もう自覚はあったから。
いっぱい嬉しくなるような言葉をもらったので、素直にそれを返したいと思った。
でも――。
ん? と自分を見つめ返してくる陽太の瞳になにも言えなくなる。
陽太はもうわかっているように、深月の両手をつかむと、
「今、なにを言おうとした?」
と笑って囁くように訊いてくる。
「言ってくれ、深月。
お前が好きですとか言ってくれたら、俺は今まで生きてきた中で、一番幸せだと感じると思う。
でも、それは今まで生きてきた中でだぞ?
これから先、お前と生きていく人生が、たぶん、もっと幸せで、大切なものになるはずだから――」
「支社長」
「陽太」
「陽太さん、す、
……」
き、が出ないっ。
「つづきはCMのあとでか、お前はっ」
と陽太は言ったが、笑っていた。
「神楽、頑張ったからかな」
「え?」
「どんなに誰かを好きになっても、相手が自分を好きになってくれる確率ってそんなに高くない気がするのに。
……深月。
俺を好きになってくれてありがとう」
「陽太さん……」
あのっ、と深月は陽太のために覚悟を決めて口を開いた。
「すっ」
きです、とは言えなかった。
あれだけ言えと言ったくせに、陽太が深月の唇を塞いできたからだ。
「……まずいな。
誰か船内に居ると思おう」
と離れたあと、陽太は真剣な顔で言ってくる。
「気配を消して、誰か居ると思おう。
忍者みたいな奴が。
そうじゃないと絶対止められないから」
忍者みたいな奴ってどんな奴だ、と思いながら、深月も笑う。
そのまま、波の音を聞きながら、ずっと陽太に抱きしめられていた。
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