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襲われたのには理由があります
船長はやめろ……
しおりを挟む「美味しいですっ、このチキン南蛮丼とお刺身っ」
「そうか。
それはよかった」
とデッキのテーブルの向こうから陽太が微笑んでくる。
いやいや……。
なんでそんなやさしげなんですか。
リラックスするどころか、逆に緊張してしまうではないですかっ、と深月は思っていた。
あれから二人で釣りをしたり、チキン南蛮丼を買いに行ったりして、お昼ご飯になった。
「呑まないのか?」
と陽太が訊いてくる。
「いえ、船長が呑まないのに、私だけ呑むとか」
と言うと、
「だから、船長やめろ……」
と陽太は言ってくるが。
「だって、今は船長じゃないですか」
と言って深月は笑った。
「もうちょっと時間が欲しいと思ってた」
なにも入っていないグラスを前に陽太が言ってくる。
「まだ俺に神は舞い降りてこない。
お前が神のものだと言うのなら、俺はお前を手に入れるために神になろうと誓ったのに。
本番が近づいても、俺はまだ神に近づけてない。
だから、まだ本番が来ないといいと思ってた」
陽太は深月のグラスにだけ白ワインを注いで言った。
「でも、今は今すぐ始まって終わって欲しい。
神楽が終わるまで、お前が清らかでなければならないと言うのなら」
「支社長」
と深月は呼びかける。
「支社長は――
私になにもしてませんよね?」
陽太はずっと苦手だったあのまっすぐな視線で深月を見つめたあとで言ってきた。
「……呑め」
深月は黙って、彼の注いだワインを飲み干す。
深月がグラスを置くのを待って、陽太は言った。
「そうだ。
俺はお前を抱いてない」
そう陽太は認める。
「だから、本当はお前の側に居る必要はない。
だけど……側に居るのに理由が必要か?」
だが、ああ、と陽太は深月を見つめて言ってきた。
「理由ならあるか。
お前が好きだ――」
でも、と陽太は続ける。
「でも、お前の側に居るのに、お前を襲ってなきゃいけないのなら、今すぐ襲う」
いやいやいや、結構ですっ、と深月は引いた。
「……何故、拒否する」
「な、何故でしょうね」
理由はないです、と逃げ腰になりながら深月は言った。
だが、そのまま陽太が見つめているので、
「こ、怖いからですかね?」
と言ってみた。
「怖くはない」
と言い切る陽太に、
いや、あなた女になって襲われたことあるんですかっ、と深月は思ったが。
陽太は深月の視線がよそを向かないようガッチリとらえ、暗示のように言ってくる。
「怖くはない。
お前が俺のことを好きなら、怖くはないはずだ」
深月は、ぐっと詰まった。
怖いと言えなくなってしまったではないか……。
だが、ビクビクした小動物のような深月を哀れに思ってか。
「ま、祭りがあるから、今は遠慮しておいてやろう」
と陽太は言ってきた。
だが、その深月のホッとした顔を見て陽太は決めつける。
「今、ホッとしたな?
ということは、今の条件でオッケーということだろう?
じゃあ、祭りが終わったら、襲うぞ」
お前の命はあと二週間だ、と言われた感じだった。
本番は二週間後だからだ。
……この間まで、恥ずかしげに手を握ってきたりしていたのに。
何故、また元の強引な支社長にっ?
と思う深月は、自分が陽太を好きだと自覚したせいで、言い寄る隙が生まれていることに気づいてはいなかった。
急に陽太がガタッと立ち上がったので、逃げかける。
周囲を回したが、海しかない。
お、泳げるか……?
と波打つ水面を見つめ、今にも飛び込みそうな深月に、陽太は、
「逃げるな」
と言ってくる。
「たいしたことはしない。
約束したからな」
たいしたことではないことはする気かっ、
とその場にあったフォークをつかみそうになったが、その前に抱き上げられた。
間近に深月の顔を見た陽太は怯えた深月がおかしいらしく、ちょって笑って、キスしてくる。
「あっ、あのあのあのっ、人が見てますっ」
「……何処に人が居る?」
真っ青な空の下、抱き上げられているので恥ずかしいが。
そういえば、陸地から離れているうえに漁船も他の船も居ない。
「じゅ、巡視艇とか」
「別に悪いことはしてないんだから、見られてもいいじゃないか」
「潜水艦とか」
「潜水艦なら、上見えないだろ?」
と言ったあとで、陽太は、
「そんなに気になるのなら、中に入ろう」
と深月を抱いたまま中に入ろうとする。
いやいやいやっ。
それもちょっとっ、と開いた扉のところで壁をつかみ、踏ん張ってみたが、無理だった。
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