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理由が必要か?

お前が怠け者でよかった

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 結局、深月が深月の部屋に、陽太たちが客間に寝ることになった。

「もうみんな寝てるから静かにな」
とお風呂から出てきた陽太たちに廊下で清春が言う。

 先にお風呂に入らせてもらった深月は自分の部屋のドアを開け、

「おやすみなさい」
と三人に頭を下げた。



 パタン、と閉まった深月の部屋の扉を陽太は見ていた。

 ……可愛いじゃないか。

 パジャマにすっぴん。

 見られて嬉しかったが、ふと気づけば、杵崎も見ている。

 そして、清春に至っては、毎晩パジャマな深月や湯上りな深月や、寝起きでぼんやりな深月を見ているはずだ。

 ……兄になりたい。

 俺も深月の兄になりたい、と一瞬、莫迦なことを考えてしまった。




 その夜、杵崎は舞うのも呑むのも頑張ったせいか、早くに寝息を立てていた。

 寝静まった家の中、陽太はむくりと起き上がる。

 覚悟を決めて、客間の襖を開けると、すぐ目の前に人の顔があった。

 清春だ。

 身長が同じくらいなので、目線も同じだ。

 そのまま無言で陽太は襖を閉め、ふたたび布団に潜り込んだ。




 よく寝た……と深月が目を覚ますと、朝の光の中、陽太が深月の顔を覗き込むようにして立っていた。

 ひっ、と深月は布団を抱きかかえるようにして飛び起きる。

「……よかった」
と陽太は深月の顔を見たまま言う。

「お前が俺たちが朝食を食べても、杵崎が帰っても、俺を見張っていた清春が仕事で仕方なく出て行っても、まだ寝ている怠け者で」

 何故、私は起きぬけから罵られているのだろうか……と思っていると、陽太は深月のベッドに腰掛けて言ってきた。

「見たかったんだ。
 寝くたれてどうしようもない感じのお前を」

 ……何故ですか、と思っていたが、陽太は、
「だって、そういうのって、気を許した相手しか見られない感じがしていいじゃないか」
と言う。

 確かに、船で目覚めたときより、自室なので、よりひどいありさまになっている気はするが……と深月は思っていたが。

 陽太は、うん、と深月を見つめ、嬉しそうに笑ったあとで、
「なんか朝から得した気分だ」
と言う。

 い、いや、髪はぐちゃぐちゃ。

 目は、はれぼったくて。

 下手すりゃ、むくんで二重顎になってますけど、寝起きの私、と深月は思っていたが。

 陽太は、
「今なら、なにかできそうな気がするな」
と笑い、深月の側に手をつくと、身を乗り出してきた。

 ほんのちょっとだけ、陽太の唇が触れてくる。

 わー……。

 いやいや、ちょっとっ。

 ちょっとどうしたらっ!

 杵崎にされたときより、もっと軽いキスだったのに、激しく動揺してしまう。

 だが、深月が得体の知れない行動を取るより先に、陽太は立ち上がった。

「帰るよ。
 このまま此処に居たら、もっといろいろしてしまいそうだから」
と言い、部屋の戸を開け、

「条子さんー。
 寝起きの深月が見られたから、帰りますー」
と陽太は叫ぶ。

 いや、貴方、うちの親になんと言って此処に残ってたんですか、と深月は思う。

「珈琲淹れたから、飲んでいきなさいよー」
と条子がキッチンから叫び返してくるのが聞こえた。

「いえ、もう戻ります。
 ありがとうございました」
と言う陽太に条子が言う。

「主人も起きたから、一緒に珈琲でも――」

「いえ、もう戻ります。
 ありがとうございましたっ」

 そう素早く繰り返した陽太は、そのまま帰ろうとする。

 ……怖いのですか、お父さんが、と深月は苦笑いした。



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