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理由が必要か?

衣装合わせとコンパ

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 深月は装束を着せられ、丈や動いてみても問題ないかなど、最終チェックを受けていた。

「はい、いいよー」
とおばちゃんのひとりが脱がせてくれながら深月に言ってくる。

「いやあ、深月ちゃん、いい人捕まえたねー」

「男前だし、お金持ちだし。
 いまどきの人には珍しく、積極的に祭りのためにいろいろと動いてくれるし」

「そうねえ。
 企業の宣伝にもなるからって言うけど。

 こんな小さな祭りより、もっと大きなとこに力入れた方が宣伝になるのにね。

 きっと深月ちゃんのためだよ」
とおばちゃんたちは言う。

 深月はいつもより多めの篝火とかイベント用のテントとか人手とかの打ち合わせをしている陽太を見ながら、

「そうじゃないですよ。
 支社長、ほんとうに神楽が好きみたいなんですよ」
と微笑んだ。

「いや、あれはいい」
と普段、そんなに無駄口を叩かない衣装直しの達人のバアさんが突然、陽太を褒めてきた。

 ヨーダなおばあちゃんより更に年上らしいのだが、一体、幾つなのかよくわからない。

「いい筋肉をしているし、骨格もいい」

 そ、そっちですか、と深月は苦笑いする。

「海の男たちにも負けない屈強な身体をしておる」
と半世紀以上、衣装のチェックで漁師たちの身体に触っている老婆が太鼓判を押してくれた。

「深月の旦那は、よい旦那じゃ。
 ……年寄りにもやさしいしな」
と付け加えられ、深月は照れた。

 旦那じゃないけど――

「ありがとうございます」

 職場では、とんだ強引な上司ですが、と思いながらも、深月は微笑み、礼を言った。
 



 本社からも許可が下りて、正式に会社としても祭りに
協力することになり。

 企画事業部から人が来たり、もともと祭り好きの人たちも手伝ってくれることになったりして、着々と祭りの準備は進んでいった。

 そんな中、忙しさでうっかり忘れそうだったコンパが開かれた。

 いや、たまたま、純たちも手伝いに来て、独身の男たちと話が盛り上がり、じゃあ、コンパをしようという話になっただけなのだが。

 社食で、沙希が、
「なにそれーっ」
と叫ぶ。

「うそーっ。
 私も行く行くっ。

 祭り手伝いに行ったら、参加できるのっ? そのコンパ。

 行く行くーっ」

 どんな私欲にまみれた手伝いだ……。

「杵崎も参加すんだよね?
 祭りの手伝いしてるし」
と由紀が言い、

「ああ」
と杵崎が言うと、

「行く行くー」
と他のみんなも割って入ってくる。

 イケメンで仕事もできるが、厳しい感じがする、と杵崎を敬遠していた女子たちも、あの杵崎の愉快な自転車のおかげでイメージが変わったらしく。

 今、杵崎は大人気だった。

 会長の一族であることも、何処からともなく広まり、知れてしまったようだし。

「支社長はもう深月で決まりだしね。
 やっぱり、杵崎さんにしよう」
と也美も勝手に決めたようだった。

 いや……私はまだなにも決めてないんだが、と思った深月は視線に気づいた。

 こちらをじっと見ている女たちが居る。

 ああ、私にトイレのバケツ投げつけてきた人たち……、と思った深月は、ちょっと迷って彼女たちに声をかけた。

「コンパ、行きますか?」

「やだ、なに誘ってんのよ、深月ー」

「いや、誘いなさいよ。
 そいつらも、いい相手決まったら、あんたにちょっかいかけて来なくなるわよ」
とそれぞれが口を出してくる。

「そういえば、この辺の漁師さんって、結構年収いいんだってね」

「え? そうなの?」

「安定の公務員も来るらしいわよ」

「杵崎さんのお友だちも」

「なんかテレビの取材が入るって聞いたけどっ」

 いや、確かに、ケーブルテレビがドキュメンタリーとして流してくれることになったのだが。

 コンパのシーンまでは撮らないと思うが……。

 だが、そんなこんなで、なんとなく、みんな参加することになった。



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