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理由が必要か?
陽太は何者なんだ?
しおりを挟む休憩が終わり、稽古に戻ろうとした深月たちだったが、隅の方で万蔵たちが渋い顔で話しているのに気がついた。
万蔵の足はまだ治ってはいないのだが、今日は条子に連れてきてもらっていたのだ。
「どうしたんですか?」
と深月は訊いてみた。
すると、則雄が、
「いや、そろそろ、宵宮のこととか決めとこうと思ったんだが。
儀式をどの程度やるかで揉めてて」
と言う。
「宵宮って、祭りの前日ですよね?」
と陽太が則雄たちに訊いている。
そうそう、と則雄が答えた。
深月が言う。
「宵宮では、祭りのために神様をお呼びする儀式をやるんです。
神楽もそのうちのひとつですけど。
まあ、儀式自体は、ひっそりやっているし。
神職だけでやって、見られない部分も多いので。
祭りを見に来る人からすれば地味ですかね?
それでなのか、いろいろ面倒臭いことが多いからなのかわからないですけど。
古い資料とか見てみたら、大祭の儀式でさえ、昔に比べて、かなり簡素化されちゃってるみたいなんですよね」
「でも、神様を降ろす儀式なら、一番重要なとこじゃないか。
なんで正しくやらないんだ?」
と陽太は言ってくる。
則雄が、うーん、と考え、言った。
「金も暇も手間もかかるからかな?」
「でも、十二年に一度の大祭なら、ちゃんとやった方がいいんじゃないですか?
俺も協力しますよ。
金なら出しますし」
と陽太が言うと、ええっ? とおじさんたちが陽太を見る。
「船長って、そんな儲かるの?」
「陽太、豪華客船の船長だったのか?」
いや、豪華客船の船長なら、こんな長い間、地上に居ないと思いますが……。
っていうか、豪華客船の船長って儲かるのか?
と思う深月の横から、
「そいつは、深月が働いてる会社の支社長だ」
と清春がバラす。
「……権力を振りかざして、深月を自分の側に置こうとする支社長だが」
と恨み節での語りもつけながら。
「陽太、支社長だったのかっ」
「支社長もあだ名だと思ってたっ」
と最初から知っていた漁業組合の人たち以外が言い出す。
「じゃ、艦長はなんだったんだっ」
……いや、艦長もありましたっけ? と思う深月の側で、おじさんたちが呑気なことを話し合い始める。
「でも、支社長って、儲かるのか?」
「あれだけでっかい会社なら儲かるんじゃないのか?」
そんなおじさんたちに陽太が言う。
「いや、俺の金でもいいんですが。
会社として協力した方が企業のイメージアップにもなるので、そうしようかと」
「ほんとうかっ?
ありがとな、陽太っ」
と陽太の肩を叩いたおじさんの一人が笑顔で言った。
「それって、陽太の会社が祭りにあれしてくれるってことだろ、ほらっ。
えーと……
売名行為!」
「協賛だろ……」
と則雄に言われていたが。
「今も企業として寄付はしていると思いますが。
もうちょっと人も出したりして、協力してもいいかなと思っています。
地域の活性化にもつながりますし。
神楽は人気ありますし。
テレビでも放送されるんじゃないですか?」
と訊く陽太に、則雄が答える。
「ケーブルテレビでちょっとと、他にニュースがなければ、県内の地上波でやってくれてるかな。
大きな神社の大祭なら取り上げてくれるんだろうけど」
そんな則雄の言葉に、
「小さくて悪かったのう……」
と万蔵が愚痴る。
「だが、まあ助かる」
と清春が言った。
「どんどん街に人が流入してきてはいるが。
ほとんどがアパートやマンションの人で、地域とは関わりを持たない人が多いし。
大家さんも店子が面倒臭がるから、自治会には勧誘しないでくれとか言ってくるし」
そう清春に言われ、清春の横に居たおじいさんが苦笑いしている。
そういえば、最近、畑をつぶしてアパートを三棟建てたおじいさんだな、と深月は思った。
「まあ、そういう事情もわかるけど。
神社の収入も先細りだし。
祭りの規模も年々小さくなっていっている。
そうして、企業がつくことで、宣伝してくれて、少しでも多くの人が興味を持ってくれて、祭りや地域の活性化につながるのならいいことだと思う。
陽太、お前に感謝する。だが、深月のことは話が別だ」
……今、感謝の言葉から続けての発言だったので、みな思わず頷き、聞いてしまったではないか。
話の切れ目は何処だ。
則雄がボソリと言っていた。
「……神楽より、この三角関係を中継した方が視聴率とれるんじゃないか?」
と。
そして、則雄は振り向き、
「おい、ケーブル!
今年は深夜でもいいから、神楽全部放送しろよ。
大祭なんだしっ」
と離れた場所で稽古していたケーブルテレビの社員に言って、
「ええーっ。
俺も参加してるから、かえって頼みづらいんですけどーっ」
と言われていた。
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