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理由が必要か?
助け舟から突き落とされているっ!
しおりを挟む「どうした、清春」
と則雄に言われた清春は、陽太が深月を連れ出した話をする。
万理が近くで青くなっていた。
自分も加担しているからだろう。
万理は、
この莫迦どもがっ、
私が清春に嫌われたらどうすんのよっ、
という目で、深月と陽太を睨んできた。
だが、則雄は、ははは、と笑い、
「滝行に行って帰ってきただけなんだろ?
別にいいじゃないか。
陽太はきっと、深月になんにもしちゃいないよ」
と言う。
「だって、見ろ」
と則雄は遊びに来ていた何処かの孫夫婦を振り返ると、奥さんが笑いながら、ごく自然にご主人の腕をはたいたりしているのを指差し言った。
「なにか関係があるのなら、ああやって、無意識のうちに、気軽に相手に触れたりしてるもんだ。
この二人はそんなこともないじゃないか」
た、確かにっ、と陽太は固まる。
本気で好きだと意識し始めてからは、覚悟を決めないと、手もつかめなくなっている。
今朝なんか、書類をもらうときに深月の手が触れただけで、書類を取り落としそうになってしまった。
そんなことを思い出している陽太の前で、ないない、と則雄は笑って手を振り、言ってくる。
「陽太は深月になにもしてないさ」
ノリさんっ、ありがたいんですが、今は言わないでっ、と陽太は祈っていた。
深月に最初の晩もなにもなかったことを感づかれてしまいそうな気がしたからだ。
鬼神の如く怒っている清春が鎮まってくれるのはいいが、深月が、そういえば、という風に小首を傾げているのが気になるっ。
「なにかあるにしては、ぎこちなさすぎだよ、この二人~」
と笑う則雄に、
ノリさんっ、助け舟ありがたいんですがっ。
逆に、突き落とされている感じがしますっ!
と陽太は思っていた。
「ささ、清春。
練習しよう、練習。
大丈夫だ、陽太はこう見えて、かなりのヘタレだ。
なにもしてないさ」
と則雄は清春の肩を叩いて練習に促してくれる。
清春は物言いたげな顔をしながらも則雄に従った。
……よかった。
いや、よかったのか?
深月がなにやら考え込んでいるようなんだが。
もしや、あの晩の記憶が戻ったとか……?
と陽太は恐怖する。
その頃、深月は全然違うことを考えていた。
支社長に、気取らない店でおごるって言っちゃったけど、何処に行こうかなと。
休憩時間に、素直にその話をすると、
「なんだ、そのことか」
と何故か陽太は安堵したように言ってきた。
他になにが……?
と思う深月に少しいつもの調子を取り戻し、陽太は言ってくる。
「そうだ。
チキン南蛮丼でもいいぞ」
「えっ」
「買ってきて、船で食べよう。
それかうちに来るか?」
「支社長、おうちがあったんですか?」
と思わず訊いて、
「……当たり前だろ?」
と言われてしまう。
いやいや、船に立派な居住スペースがあるので、なんとなく、あそこに住んでいるのかと。
はは、と深月は笑って誤魔化そうとする。
「でも、この辺りのチキン南蛮丼はいまいちなんですよ」
「じゃあ、隣の県まで行って買ってこよう」
「意味がわかりませんが……」
と言っているうちに、休み時間は終わった。
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