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理由が必要か?

恐ろしいな、神主

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「た、ただいまー」
と深月が着替えに家に帰ると、清春が玄関に仁王立ちになっていた。 

「……おかえり」
と清春は腕を組み、冷ややかに深月を見て言う。

 深月は慌てて、
「あ、万理さ――」
と万理に言われた通りに言い訳しようとしたが、清春に先を言われた。

「万理んちに泊まったんだってな」

「さ……」

「お前の友だちの佐々木優子も来てたんだって?」

「そ……」

 そうなのよ、と言おうとした深月に清春は言う。

「さっき、そこで会った」

「……誰に?」

「佐々木優子に」

「何処で」

「そこのコンビニで。
 食パンが切れたって条子ながこさんが言うから、買いに行って、出会った。

 万理のところどころか、俺の同級生の溝口のところにお泊まりして、二人で朝食買いに来てたぞ」

 恐ろしいな神主……。

 向こうから、不正の証拠が、
『暴いて』
とやってくるとは――。

「何処に行っていた、深月」

「荒行に」

 いや、湯に浸かって、ほかほかしてただけだろ、と陽太が言ってきそうだったが。

 さすが日本一の打たせ湯、かなり痛かったのだ。
 気持ち的には、ちょっぴり荒行だ。

「祭りの前なので、身を清めようかと」

 お土産です、とこんなこともあろうかとあらかじめ用意していた土産の小魚フリカケを差し出した。

 道の駅とかでよく売っている清春が好きなフリカケだ。

「じゃっ、遅刻するんでっ」
と深月は急いで横をすり抜ける。

「船長は何処行った?」
という声が追いかけてきた。

「そのまま仕事行ったー」

 陽太は船に着替えを置いているので、そのまま会社に行けたのだ。

 急いで着替えた深月は、条子にご飯はいいと言って、自転車に飛び乗った。
 


 朝、陽太が職場で軽く準備運動と称した舞の稽古をしたあと、仕事に励んでいると、深月がやってきた。

「支社長、来週、本社の方がいらっしゃったときの会議室、変更になりました。

 それと、あの日、いつもの仕出し屋さんが社員旅行でお休みなので、店を変更しようかと思うんですが。

 ノリさ……、知り合いがいつも活きのいい魚が入ってるって言ってる料亭があるんですけど。

 仕出しもやってるんで、頼んでみようかと。

 杵崎さんもそこでいいんじゃないかと言ってるんですが。

 一応、支社長の許可をと思いまして」

「料亭か。
 今度一緒に行ってみるか?」
と深月に笑って言うと、

「仕事でですか?」
と返された。

「……プライベートに決まってるだろう」
と言ったが、

「今、仕事中です」
とすげなく断られる。

 深月が用意してくれた仕出しのメニューと店の資料を見ながら、
「食事くらい付き合ってくれてもいいだろうに」
と言う自分の愚痴は聞かずに、深月は、

「では、失礼します」
と言って行ってしまう。

 ……公私混同しない立派な秘書だな、と嫌味まじりに思っていると、扉のところで足を止めた深月が小さな声で、言ってきた。

「あの、……私はそういう肩肘張ったところより、もっと庶民的でくつろげるところの方が好きです。

 昨日のお礼に、私がおごります。

 ありがとうございましたっ」
と言って、ピュッと逃げようとした。

「待てっ」
と呼び止める。

「清春にはバレなかったか?」

 親よりそっちを心配して訊いてみた。

「バレました。
 あの人に隠し事するなんて無理です……」
と深月は怯えたように言ってくる。

 ……なにがあったんだ、と思っている間に、深月は出て行ってしまった。

 ともかく深月は俺が守ってやらねば、と気合いを入れて、次の神楽の練習に顔を出したが。

 案の定、清春が、すごい形相で睨んできた。


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