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支社長室に神が舞い降りました

お前が神のものだと言うのなら

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 月曜日。
 いつものように船と競争しながら、深月は職場に向かっていた。

 陽太が笑ってこちらを見ているのが見えた。

 昨日のキスを思い出し、赤くなる。

 いや、頬になんだが……。

 ふと見ると、駐車場に杵崎が居た。

 車の陰に立っている。

「おはようございます。
 乗っていきますかー?」
といつもの癖で言うと、杵崎はいつものように、

「いや」
と言ったので、そうですかー、と行こうとしたのだが。

「こっちに乗れ」
と杵崎が言ってきた。

「は?」
と深月は自転車に跨ったまま、訊き返す。

「これに乗れ。
 俺も漕ぐ」
と言いながら、杵崎が車の陰から現れた。

 その辺の道路で走ってるのはなかなか見ない二人乗り、タンデム自転車とともに。

 ……なにかのCMか、動画サイトの動画でくらいしか見たことないんだが。

 ああ、あと、交通博物館みたいなとこ、と思いながら、深月は、はあ……とその二人乗り自転車を見た。
 


「お前、今朝、英孝と曲芸しながら、出勤したらしいな」

 支社長室で深月はそう言われた。

「いや……曲芸はした覚えはないんですが」

 そう言いながらも、そんな伝言ゲームになってしまったわけはわかる気がした。

「なんだ、あの二人乗り自転車っ」

「テレビ以外で初めて見たぞっ」

「一輪車なら子どもが乗ってるの見たことあるけど」

「ああ、一輪車」

 ……わかる。

 そんな展開。

 そして、一輪車から話が転がって、曲芸になってしまったに違いない。

「私が杵崎さんを見かけるたびに、なんとなく乗せていきましょうかと言ってたせいでしょうか。

 杵崎さん、二人乗りは禁止だと言っていたので。

 それで断り続けるのもどうかと思って、ちゃんとした二人乗り自転車を買ってきたんですかね?」

 悪いことをしました、と言う深月に、陽太は、

「いや、一輪車だろうが、二輪車だろうが、会社の構内を走るのはどうかと思うが。

 ……なんか楽しそうじゃないか」
と言う。

 いや、楽しく出勤しちゃいけないんですかね……?
と深月は思っていた。
 



 深月が出て行ったあと、陽太は思っていた。

 英孝め。

 深月と出勤するために自転車まで買ったのか。

 ……深月は船に乗っていってくれないから、俺も自転車を買うべきなのかっ。

 いや、やはり、車を買って、朝迎えにいくべきかっ。

 いやいやいや。

 そうじゃないだろう、と陽太は思う。

 昨日、祝詞を上げる清春の側で控えていた深月を。

 装束をまとい、舞っていた深月を思い出す。

 神に仕える深月を手に入れたいのなら、俺が神に近づかねばっ。

 お前が神のものだと言うのなら、俺に神が舞い降りるよう、俺は頑張る!

 この間注意された点を思い出しながら、舞い始めたとき、
「支社長」
とノックして、営業の係長が入ってきた。

 陽太は窓からの光を背に、両手を差し上げた状態で止まっていた。

「……仕事前の準備運動だ」

 はい……と言って、係長は、ぱたん、と扉を閉めた。




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