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支社長室に神が舞い降りました

そもそも、あいつは論外だ

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「杵崎さん、杵崎さん。
 私、巫女さん、やったことありますよー」

「私もお正月、巫女さんやってますよー」

 休憩時間、万理と律子が杵崎の巫女好きを聞きつけ、話しかけていた。

 いや、二人とも、清ちゃん目当てにやってただけですよね……と深月は珈琲の入った紙コップを手に舞台の端に腰掛ける。

 二人に言い寄られた杵崎は律子にもらった珈琲を手に、
「バイトは却下だ」
と言い放つ。

 杵崎のつれない言い方がツボらしく、やだーっ、と万理と律子は仲良く盛り上がっていた。

 清春を取り合っているときのような険悪さはない、レクリエーション的な感じだ。

 律子が、
「でも、深月だって似たようなもんですよ~。
 本業OLなんだから」
と言うと、杵崎は、

「そもそも、あいつは論外だ」
と深月をバッサリ切って捨てる。

 万理たちは爆笑していた。

 ……楽しそうですね、私が論外で。

 まあ女の友情なんて、こんなものか、と思う。

 そもそも、清ちゃんを通じての友情だしな……。

 そういえば、中学のときも、高校のときも、よく、
「一宮くんの従妹なんだって?」
とか、

「一宮先輩の妹なんですか?」
と女の子たちに声をかけられていたっけな、と思う。

 深月は濃すぎて熱すぎる珈琲を手にしたまま、陽太の方を眺めた。

 陽太は休憩時間だというのに、おじさんたちに聞きながら、振りの確認をしている。

 あれだけ嫌がってたのに。
 やり始めたら本気だな……。

 陽太の役はいわゆる悪役だ。

 かなり動き回るので、体力がいる。

 勢いを落とすと、話が盛り上がらないので、どんなに疲れていても、大きく動き続けないといけない。

 確かにおじさんたちにはきついよな、と深月は思う。

 陽太に振りをやって見せていた細身の喜一もきつそうだった。

 だが、陽太は身体も大きいし、体力もあるので、四股を踏む感じに大きく足を広げて、どん、どん、と足踏みすると、舞台が揺れるくらいの振動を感じる。

 ナイスキャストだったな、と思ったとき、おじさんたちが陽太に会場に下りて、子どもたちにちょっかいかけるシーンをやってみろ、と言い出した。

 陽太は言われるがまま、何処かの孫を脅してみていた。

 ……やめてください。
 本気で泣いています。

 迫力ありすぎだ、と思ったとき、後ろで声がした。

 陽太とは違う、男なのに、何処か透明感のある声だ。

「お前より、あの支社長の方が呑み込みが早いようだな」
と言われ、うっ、と思う。

 清春が後ろに立っていた。

 舞台に立つ清春は腕を組み、陽太の方を見ている。

「人手が足らないから、もう一個やってもらおうかって話になったぞ。

 俺と一緒。
 面被らないやつ」

「そ、そうなんだ?
 でもあの、支社長忙しいから、あまり増やさないであげてね」
と言うと、清春は冷ややかに深月を見下ろしたあとで、

「俺も忙しいんだが」
と言ってくる。

 そうですね。
 わかってますよ。

 おじいちゃんが動けないから、貴方がひとりで神社回してますもんね。

 だから、休みの日は手伝ってるじゃないですか、と苦笑いしていると、下に立つおじさんがこちらを見て言ってくる。

「『清ちゃん、お疲れ様。
  清ちゃんが大変なの、深月が一番わかってるよっ』
 とか言ってやれ、深月っ。

 清春、ホイホイ働くぞー」

 ……いや、私、『深月が~』とか言いませんし。

 そのアドバイス、清ちゃんに聞かれている時点で意味ないのでは、と思いながら、清春を見上げた。

 清春は沈黙してこちらを見ている。

 その圧に耐えかね、うっかり、そのまま言ってみた。

「き、清ちゃんが大変なのは、よくわかってるよ。
 お疲れ様」

 それでも、清春は、まだ黙って見ているので、深月は笑顔を押し上げ、笑ってみた。

 すると、清春は、

「……うん」
となにが、うん、なのかわからないが、頷き、行ってしまった。

 下に下り、陽太のところに居た則雄たちと話し始める。

 陽太の舞の指導もし始めたようだ。

「な、深月。
 男って単純だろ」

 ひひひ、とおじさんは笑っていたが。

 単純かな。

 私には複雑怪奇に感じられるんだが……と深月は思っていた。



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