好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
33 / 95
理由がありませんっ

あんた、今のままで楽しそうじゃない

しおりを挟む
 


 クリアファイルの束を手に、深月が戻ってくると、ちょうどカウンターの後ろを通りかかった営業のおじさんが言ってきた。

「ねえ、明日の小学校の社会科見学、案内すんの?」

「はい。
 私が担当させていただきます。

 あ、もしかして、お子さんがいらっしゃるんですか?」
と笑いかけると、

「うん、そう。
 よろしくね。

 俺に似て可愛いから、すぐわかるよ」
とおじさんは言ってくる。

「美人のおねえさんが案内してくれるって言っとくから」
とおべんちゃらを言って去っていくおじさんに、

「ありがとうございます~」
と深月は笑って頭を下げた。

 ふと気づくと、膝乗りハンターさんがじっとこちらを見ている。

「ねえ」
と呼びかけてきた。

「あんた、ほんとに秘書室行きたいの?」
「え?」

「楽しそうじゃない、総務で充分。
 こっちの方が向いてて、やり甲斐があると思うのなら、いくら好きな男に言われても、従う必要ないんじゃない?」

 何故、突然の助言、と苦笑しながらも、
「……ありがとうございます」
と深月は礼を言った。

「でもほんとに、支社長とはなんでもありませんから」
と言ったのだが、膝乗りハンターさんは小声で言ってくる。

「いやいや。
 支社長はあんたにメロメロに見えるわよ」
と。

 いや、なんで小声で言うんですか。
 広めてやるって言いませんでしたっけ?
と思いながら、深月は言った。

「そんなこともないですよ。
 それに秘書室には、靴にガラスが入ってたら、やだから行きません」

「なんで、靴にガラスが入るのよ。
 っていうか、あんた、社内で靴脱ぐことあるの?」

「……言われてみれば、そうですね。

 でも、定番じゃないですか。
 トウシューズに画鋲とか、ロッカーにある衣装がズタズタとか」

「なんの衣装よ」

 ……神楽のですかね?

 だが、さすがに会社には持ってきていない。

「っていうか、それ、私がやると思ってるんでしょ?
 無理よ」

「なんでですか」

「……まず、あんたのロッカー何処よ」

「……総務のロッカー室、ご存知じゃなかったんですか?」

 いや、すぐそこなんだが、と振り返っていると、
「そうじゃないわよ」
と彼女は言ってくる。

「そもそも、あんた、誰よ」

 名前は、なによ、と訊いてくる。

「……実は我々、似てるのかもですね、膝乗りハンターさん」
とうっかり本人に向かって言ってしまい、

「膝乗りハンターって誰よっ」
とキレられた。
 



 膝乗りハンターさんは、向田沙希むかいだ さきさんというのだそうだ。

 ……すみません、向田さん、と思いながら、深月は仕事に戻った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処理中です...