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理由がありませんっ
お前は女としては好きじゃない
しおりを挟む「一度はそういう関係だったときもあるけど。
お互い、あんまり好みじゃなかったのよね~」
サラダがメインの定食を食べながら由紀が語り出し。
深月は少々混乱をきたしながら、その言葉を聞いていた。
好みじゃなかったのに、何故、そういう関係に!?
わからないっ、と思う深月の横で、杵崎は顎に手をやり、うーん、と軽く唸ったあとで言ってきた。
「まあ、好みじゃないからこそ、チャレンジしてみたというか。
俺の場合、好みに従って行動すると、フラれたり騙されたり、ロクな結果にならないから、新しい世界を覗いてみる必要があるなと思ったっていうか」
……杵崎さんは駄目女が好きなのでしょうか。
ということは、金子さんは駄目女じゃなかったってことで、逆によかったのでは、
と深月が思っていると、いきなり、由紀が、
「そういえば、実は、一宮、あんたの好みじゃない?」
と杵崎に向かい、言い出した。
あの~。
私、今、杵崎さんの好みは、駄目女、という結論に達したばかりなのですが、
と思う深月の前で、杵崎は、
「いや、こいつは俺の好みじゃない」
と言い切る。
「あら、なんで?」
と由紀が訊くと、杵崎は重々しく、
「……その理由はちょっと此処では説明できないな」
と言ってきた。
物凄い秘密が隠されてそうなその言い方に、思わず、
じゃあ、何処なら言えるのですかっ!?
と思ってしまったが。
よく考えたら、別に杵崎と付き合うわけではないので、どうでもいい話だった――。
昼食後、同期たちと少し話したあと、深月がエレベーターに乗ると、杵崎も乗ってきた。
端と端だしいいか、と思っていたのだが、どんどん人が降りていって、最後には自分と杵崎だけになる。
「何故、そんな端に居る」
と杵崎が言ってくる。
「心配しなくても、二人きりだからって、こんなところで襲ったりしないぞ」
いや、みんなが降りてったから、端と端になっただけなんで……。
そして、二人だけになったからと言って、ぐいと近づいて話し出すほど親しくもないからですよ。
そう思いながらも、深月は杵崎と二人きりという空気が薄くなるような緊張感に耐えられず、場を和ませようと笑っていった。
「杵崎さん、私は好みじゃないんでしょ?
だから、そんな心配はしてませんよ~」
「そうだな。
俺はお前は女としては好きじゃない」
……うっ。
いや、別にいいんですが。
そうハッキリ言われると、参考までに何処が?
と訊きたくなるな、と思っていると、親切にも杵崎は教えてくれた。
「俺とあまり身長が変わらないからだ」
……は?
「いや、結構違いますよ?」
と確かに陽太よりは少し背の低い杵崎をマジマジと見ながら言うと、
「まあ、今の状態ならな。
だが、いざというとき、女はヒールを履くじゃないか」
と言われる。
いざというときってどんなときだ、と思いながら、深月は言う。
「私、自転車なんで履きません」
「これからはヒールでいいだろう
船で送り迎えしてもらえるんだから」
いや~、うちから船に行くのがまず、時間がかかるんで……と苦笑いしながら、深月はあくまでも軽く流そうと思って言った。
「なんだ、そんな理由ですか。
相性が悪いからかと思いましたよ~」
だが、真面目な杵崎は、
「相性が悪いのか?」
と真剣に訊いてくる。
「いや、知りませんが、静電気でバチッとなったから」
「阿呆か……」
そんなしょうもない話をしているうちに、いつの間にか、総務の階に着いていて、杵崎が扉を開けるボタンを押してくれていた。
「あっ、すみませんっ。
ありがとうございますっ」
と深月は急いで降りたが、振り返り、礼をしようとしたとき、杵崎が、
「そうかっ。
わかったぞっ」
と叫ぶのが聞こえてきた。
なにがわかったんですかっ?
と思ったときには、扉は閉まっていた。
すっごい気になるんですけどっ、杵崎さんっ!
そう深月が思ったとき、ちょうど陽太が歩いてきた。
気を抜いていたので、思わず、
「船長っ」
と呼んでしまう。
……船長?
と既にデスクに居たおじさんたちが顔を上げ、こちらを見る。
神楽の練習のとき、半分くらいの人が陽太を船長と呼ぶので、洗脳されたようだ。
「あっ、すみませんっ。
支社長っ」
ちょうどトイレから出てきた由紀が、
「……どんな間違いよ」
と深月にだけ聞こえるように言って通り過ぎていった。
深月はそこで小声になり、陽太に頼む。
「支社長っ。
今、杵崎さんが思いっきり意味深なことを言って去ってったんですっ。
なんだったのか訊いといてくださいっ」
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