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理由がありませんっ

舞を舞うには条件がある

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 何故、急にっ、と思う深月に、陽太は言う。

「巫女舞をしなければならないお前を穢してしまったことだし。

 その詫びに協力するという形を取るのなら、やぶさかではない。

 だが……」

 ちょうど漁港に着いたところだったので、船をとめた陽太は、ひょいと深月を抱きかかえた。

 ひっ、と固まる深月の顔を見つめ、陽太は、
「だが、なにも記憶がないのに責任を取らされるのは嫌だ」
と言い出す。

 陽太はそのまま深月を抱いて、寝室の方に行こうとした。

「いやいやいやっ。
 私、責任取れなんて言ってませんから~っ!」
と深月は自分を抱き上げる陽太の腕を何度も叩いたが、ペチペチという音しかしない。

 ああっ、こんなことなら、お父さんのジムに行って鍛えておくべきだったっ、と思いながら、

「わ、私も記憶ないですしっ。
 責任なんて、とってくれなくていいですっ。

 なかったことにっ。
 なかったことにっ」
と叫ぶと、

「なにっ?
 お前、あれだけのことをしておいて、なかったことにするつもりなのかっ?」

 どんな淫乱女だと言われてしまう。

 そのまま、あのベッドに放られた深月は思わず、

「助けてーっ。
 おかーさーんっ」
と叫んでいた。

 深月の身体の両脇に手をついた陽太に、
「……いや、お前。
 今、お母さんに来られても気まずいだろう」
と冷静に言われてしまったが。

 いや、それはそうなんですけどね……と思いながらも、深月は陽太の額に手をやり、押し返す。

「抵抗するな、深月」

 いつの間にか、一宮が深月になってるっ!

「お前は神に仕える巫女だろう。
 巫女さんが人の心をもてあそんでもいいのか」

 もっ、もてあそばれようとしているのは私の方ですっ、と額を押し返そうとする手に力を込めたとき、深月のスマホが鳴り出した。

 ポケットに入れていたそれを見ると、清春からだった。

 深月は慌てて、電話を取る。

「深月、今、何処だ」

 清春の声が聞こえた陽太は、
「……超能力か」
とぼそりと言う。

 陽太の手が離れたので、深月は起き上がり、その場に正座して、清春と話した。

 思わず正座してしまったのは、ちょっとやましい気持ちがあったからだろう。

 自分の意思ではないとしても、神様に捧げる舞の稽古の前に、こんなことをしているということに対して。

「うん、うん。
 わかった。

 すぐ行くから」
と早口に深月は言う。

 よそを向いている陽太を見ながら、チラと付け足した。

「あ、今から支社長も行くって」

「行かない」
と陽太は拗ねて言っていたが、結局来た。




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