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理由がありませんっ
そんな話は聞いてない
しおりを挟む遅れて稽古に来た深月は、
どうしよう。
完全にこの人、私の彼氏扱いになってるが……と思っていた。
そして、万理さんたちが支社長に群がっている……。
「やだーっ。
ほんとに、すっごいイケメン!
何処の漁師さんなの?」
「は? 漁師さん?」
と深月は訊き返したが、そこで、さりげなく則雄に肩を突かれる。
「深月、彼氏があんなデカイ会社の支社長ってのは黙っとけ。
こいつら群がるから」
と則雄は小声で言ってくる。
いや、すでに群がっているうえに、兄に夢中なはずの人や人妻も居ますけど。
何故か新たにやってきたイケメンを見ようと、おじさんたちも集まり出す。
「おっ、あのとき、深月と張り合うように呑んでたイケメン!」
と誰かが言った。
あのふるまい酒の夜のことを記憶している人間が居たようだ。
そ、そのときのことを聞きたいっと思ったとき、
「深月」
と清春が声をかけてきた。
清春は駐車場を眺めながら言ってくる。
「船で来たんじゃないのか」
どうやら、駐車場に船がないので探していたようだ。
「いや、どうやって、此処まで上がれると思うの……?」
確かに横に川はあるけど。
抱えてて上げられるような船じゃないんで、と思ったとき、その会話を聞いていたらしい陽太が、清春を見て、
「誰だ、こいつは」
と言ってきた。
「兄です」
と言うと、
「だろうな」
と言う。
だろうなってなんだ……と思って、陽太を見上げると、
「いや、あんまり顔は似てないが、訳のわからんことを言うのが似てる。
舞を舞わないといけないのにと、初めての――」
と陽太が言いかけたので、深月は慌てて陽太の口を塞いだ。
初めての夜のあとなのに阿呆なことを言い出したと言おうとしたからだ。
こんなところで、なに言おうとしてんですかっ、と深月は赤くなったが、手で口を押さえられた陽太も、何故か少し赤くなっているように見えた。
そのとき、
「深月、ちょっと」
と清春に呼ばれた。
「あっ、支社……
飛鳥馬さんっ。
ちょっとノリさんたちと居てくださいっ」
と言っている間に、深月は手をつかんだ清春に引きずっていかれた。
おいおい、こんな地域性の高いところで、俺をひとりにするなよ、と思いながら、陽太は兄に引きずっていかれる深月を見送っていた。
ビジネスの場ならともかく、こんなところで一人になるのは、さすがに心細い、と思ったとき、万理たちがささやき合うのが聞こえてきた。
「なに、清春。
まだ、深月にご執心じゃん。
妹になったのにね」
「なんだって?」
と陽太は彼女たちの会話に割り込んだ。
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