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理由がありませんっ

人妻だろうと、イケメンを近くで眺める権利はあるはずだ

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 七時過ぎ。

 深月の地元のコミュニティセンターの一番広いホールには煌々と灯りがついていた。

 バラバラと仕事の終わった男たちが神楽の練習に集まってきているのだ。

 どうせ練習するからと、一宮清春いちみや きよはるは神社から袴姿のまま来ていた。

 清春は髪も瞳も肌も色素が薄いのだが、神職の白衣に浅葱の袴がよく似合う。

 到着した清春の側に、すすすすっとエプロン姿の高校時代の同級生、万理まりが寄ってきた。

清春きよはる、ご飯食べてきた?

 万蔵さんが入院したから大変でしょう?」

 なにも食べずに駆けつけてきた人間のために、おむすびなどの軽食を女性陣が用意してくれているのだ。

 そこに清春の幼なじみの律子りつこが割って入ってくる。

「ちょっと、万理っ。
 あんた、もう人妻でしょうっ?

 なに今更、清春に言い寄ってんのよっ」

「いいじゃないのよっ。
 人妻だろうと、イケメンを近くで眺める権利はあるはずよっ。

 っていうか、あんたも彼氏居るじゃないのっ」
と二人は揉め始める。

 清春はそこは軽くスルーして、ちょうどやってきた則雄に訊いてみた。

「ノリさん、深月知らないですか?」

「ああ、遅れてくるみたいだぞ。
 そうそう」
と則雄はにんまり笑い、

「舞い手、見つかりそうだぞ、清ちゃん」
と言ってくる。

「そうなんですか?」
と訊くと、則雄は、

「深月の彼氏がやってくれそうだった」
と言う。

 ……深月の彼氏、とは誰だ、と思う清春の前で、まだ律子と万里は、

「万里っ、あんた、もともと茶髪のくせに、髪黒くしてんの、清春の神社に嫁に行くつもりだったからでしょ?
 もうやめなさいよっ」

「いいじゃないのよ。
 似合うんだからっ」
と揉めていたのだが、

「深月の彼氏ってなにっ?」
と二人同時に身を乗り出してきた。

 こういうときは息が合ってるな、とつい思ってしまう。

「病院で会ったんだ。
 俺が見舞いから帰るときも、まだ外でなにやら揉めてたんで、飯食ってから来いよって脅したら。

 二人ともあとで、船で来るって言ってたよ」

「船で?」

「えっ? 漁師さんなの?」
と二人が訊き返している。

 すぐに則雄に群がり、質問攻めにしていた。

「何処の人?」
「イケメン?」

「イケメンだなあ」

「身長は?」
「清春とどっちがイケメン?」

「どっこいどっこいかなあ」
と則雄は支度しながらなので、たまにしか答えないのだが。

 自分の代わりに二人がガンガン訊いてくれるので助かるな、と清春は思っていた。

「付き合い出したのは、つい最近らしいぞ」
と則雄が言う。

 そうだろうな。
 兄である俺も聞いてない。

 清春がそう思ったとき、万理たちが、
「ちょっと電話しちゃおー」
と言って、スマホから深月に電話し始めた。

「深月。
 今、何処ー?」

 稽古に遅れているからかけてきたのだと思っているらしい深月が、
「今着きますー」
と叫んでいるのが聞こえてくる。

 いや、そいつら、お前の彼氏とやらを早く見たいだけだぞ、と思っているうちに、近くまで来ていたらしい深月が、

「着きましたーっ」
とスマホを耳に当てたまま、ホールの扉を開けた。

 その後ろに、なるほど、コートとスーツがよく似合うガッシリした体格のイケメンが立っていた。

 こいつ、こういう顔が好みだったのか、と清春はマジマジと男を見つめる。

 彫りの深いイケメンだ。

 自分とは対照的な顔だな、と思ったとき、男と知り合いらしい何人かが、

「おっ、陽太じゃないかっ。
 お前、深月と付き合ってたのかっ」
と声を上げていた。

 陽太は愛想よく、
「お久しぶりです」
と彼らに挨拶しているが、ホールの中を見回しながら、なにやら不安げだ。

 おそらく、深月について来ただけなのに、舞い手として引っ張り込まれそうな気配を感じているのだろう。

 如何に屈強な男でも、これだけの男連中に囲まれたら、抵抗できそうにないしな、と思いながら、清春は眺めていた。



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