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樹海に沈む死体

疲れないか?

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「だが、浅海が運んでいた食事は一人分だったんじゃないか?
 記憶は曖昧なようだが、中に居たのは一人だと思っていたようだ。

 子供の頃、運ぶ食事を見て、箸の数などから、一人と認識していたから、そのことを忘れても、無意識のうちに、中に居たのは一人だと思っていたんだ」

「そうでしょうね。
 中には、二人居た。

 食事は一人分しか運んでいない。
 ならば、一人は死んでいたことになります」

「もう一人の人間は、死体とともに、あの穴の中に居たってことか。
 発狂しそうな状況だな、と思う。

 まだ腐ってなかったのなら、凄い匂いがしただろうに。

 で、その後は、犯人の一人はホテルに、もう一人は洞穴に死体として居たと思ってるわけだな」

「その可能性もあると思っています。
 何故、そうなったのかは不明ですが。

 そしてやはり、どうして犯人が、此処に被害者と居るのかがわからない」

 どうして犯人が、此処に被害者と居るのかがわからない。

 そういう言い方を、志貴はした。

「年月も経っているので、亮灯は不安になったんです。

 本当に、それが犯人なのか。
 自分の見間違いなんじゃないかと。

 亮灯からしたら、殺したいくらいの相手だ。
 なのに、他の被害者が呑気に犯人と居るのが信じられないから。

 だから、先生に手を握ってもらおうと思ったんですよ、犯人の。
 それで、貴方の事務所に入って、タイミングを窺っていた」

「俺にやって欲しいことってのは、それだったか。

 しかし、俺はまだ、此処に来てから、犯罪を犯した人間の手を握っていない。
 ってことは、俺がまだ手を握ってない相手だよな。

 ……スタッフはほとんど握ってないな。

 ところでボウガン、下ろさないか?
 腕が疲れるだろう」

「嫌です」

「俺を殺したら、亮灯に恨まれるぞ」

「どういう意味ですか。
 早く死にたいんですか?」

「莫迦。
 俺が恋しくてとかじゃなくて、犯人が確かめられないからだよ」

「もういいです。
 僕が確かめて、殺します。

 こうして、追い詰めて、吐かせます。
 亮灯はなにもしなくていい。

 それなら、回りくどい手を使わなくて済みますから」

「お前は、本当に阿呆だな。
 お前が捕まって、亮灯が喜ぶと思ってるのか」

「……亮灯は僕を好きなわけじゃない。
 僕が彼女の復讐を手伝うと言ったから、僕の側に居るだけだ」

「もう一回、言おうか。

 お前は、本物の阿呆だ。

 亮灯は、お前のことを王子様と言っていたのに」

 かなり凶悪だが。

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