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樹海に沈む死体

最後に呆れられないように

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「じゃあ、俺には全体像はまだ見えてないから、部分的なことだけ」
と晴比古は渋々語り出す。

「お前たちが陸を最初から閉じ込めるつもりだったとする。

 じゃあ、陸は何処で殴られたのか。

 上の階や他の場所じゃなくてもいいわけだよな。

 本人自ら、冷凍室に入るつもりだったんだから」

 ちら、と亮灯を見る。

 一言くれないかな、と思ったのだ。

 気になるポイントが此処でひとつあったからだ。

 だが、なにも言ってくれる風にはないので、仕方なく訊いてみる。

「陸は最初から冷凍室に入る予定だったのか?
 それか、冷蔵室でもよかったのか?」

 亮灯は少し迷い、
「どっちでもよかったんですけど。
 殺そうとしてる感を出すのなら、冷凍室に。

 でもーー」

 そこで亮灯は言葉を止めた。

 だから、確信した。

「わかった。
 ありがとう」
と言うと、

「あっ、ずるいっ」
と言う。

「いいじゃねえかよ。
 早く陸を探して止めた方がいいんだろ」
と言うと、渋い顔をしながらも、なにも言わなかった。

「よしっ。
 俺の考えてる路線で合ってる。

 陸は自分で冷蔵庫の前に行った。

 そこで諍いがあって、殴られ、冷凍室に押し込まれたんだ。

 これはお前たちにとって、想定外だった。

 つまり、お前たちに察知できない状態だったわけだ。

 お前たちは陸としか接触してなくて、もう一人とは会ってない。

 或いは、その一人は、お前たちと陸には、自分が不満を抱いていることを気づかせないようにしていた」

 そう言うと、亮灯は考えるような顔をする。

「……お前、もしかして、わかってないのか。
 陸を殴った犯人がなんで仲間割れに至ったか」

「そうなんですよね、実は」

「それは俺が後で考えてやるから、とりあえず、俺が言ってることが当たってたら、全部話せよ」
と確認する。

「いいですけど。
 先生は、さっきから、協力者を一人と設定してますけど、何故ですか?

 複数の人間という可能性もありますが」

「このホテル、あんま人、居ないじゃないか」

 そんな理由? という顔を亮灯はした。

「いや、もちろん。
 それでじゃない。

 いや、それでというのもあるか。

 疑わしい人間が限られるという点において。

 陸は自分で歩いていって、殴られた。

 下の冷凍室に、詰め込まれた。

 これらの事実から言って、犯人は男である必要はない」

「持ってまわった言い方しますね」

「力のある男である必要がない、というだけで、女だという確証にはならないからな。

 でも、お前がさっき言ってくれたから」
と言うと、亮灯は、あ、やっぱり、という顔をした。

「『どっちでもよかった。
 殺そうとしてる感を出すのなら、冷凍室に。

 でもーー』
 とお前は言った。

 でも、上の冷蔵室に陸が自分で入ってくれる方がよかった。

 そしたら、犯人は男だと思われるから。

 てことは、犯人は女だ」

「もう~っ。
 だから、答えるの、やだったんですよね」

「計画してあったのに、いきなり強く殴っておいて、殺すでもなく、懲らしめる感じで閉じ込める。

 そんなの女の犯行だろ。

 それも、陸に恋愛感情のある女の犯行だ。

 まあ、最初から目星をつけといた女が居るから、その発想に至ったっていうのもあるけどな」

「目星ついちゃってましたか。
 よく言っときますよ」

「そいつも逃げたんだろ。
 いや、最初から、逃げまくってるな。

 ずっと見つからなかったのはそのせいだ。

 乱暴されて、殺されてるのなら、このホテル周辺の狭い範囲から、見つからないはずはない。

 まあ、樹海の奥に放り込まれれば別だが、誰も長く一人でホテルを離れた奴は居ない。

 ずっと見つからなかったのは、本人が生きて動いてたから。

 みんなが捜索するのに合わせて隠れて逃げてたからだ。

 だから、何処にも居なかった。

 陸の恋人で、陸を殴ったのは、新村早希だ」

「お見事です、先生」
と亮灯は本当に感心したように手を叩く。

「やっぱり、私が居なくても大丈夫なんですね」

 褒められても嬉しくない。

 今、その一言は言って欲しくなかったから。

 どう考えても、亮灯は、今まで通り、自分の許に留まってくれそうにはない。

 これからずっとあの事務所に一人か。

 ……小学生でも雇おうかな。

 ははは、と笑い、せめて、最後に呆れられないよう、ちゃんと推理の過程を伝えることにした。

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