冷たい舌

菱沼あゆ

文字の大きさ
27 / 80
予兆

天満

しおりを挟む
 

 夕食後、どうせならと某アイスの店まで三人は出向いた。

 ちなみに車は和尚たちの家の普通のセダンで、忠尚の運転だった。

 お気に入りのグリーンティを頬ばりながら、透子は言う。

「龍也も来たそうだったよ」
「あいつにまで奢ってやる義理はねえ」

「そうやって、すぐハネにするから拗ねちゃうんじゃないの?」

「今日のはただの金銭問題だろ」

 そう言う和尚を睨んで、忠尚は、
「だいたい、お前もちゃっかり入ってんなよ」
と言う。

「俺はいいんだよ」
「なんでだ?」

「双子だから」

「……なんでだ?」

 わけのわからないことを言って煙に巻く和尚に乗せられ、悩む忠尚に、透子は笑った。

 ガラス張りの店内から外を見る。
 国道と近くの工場の光で結構明るかった。

「そういや、お前、加奈子を知ってるって?」

 突然そんなことを言った忠尚に、透子は口に入れていた塊を慌てて飲み込む。

「ああ、今日の忠尚のデートのお相手」
「今日のってつくところが、ミソだよな」

 うるさいっ、と忠尚はわめく。

「あのね。よくうちに御守り買いに来るんだ。

 一ヵ月に一遍くらいかな。
 でも返しには来ないんだよね。

 友達にでもあげてるのかな」

 新しいのを買ったりして用の終わった御守りは、神社に返すことになっている。

 まあ、ちゃんとやる人間は少ないが、そんなに買っているのなら、持て余すだろうに。

「それ全部、恋愛成就の御守りだろ」
「そう。なんでわかったの?」

「あれはそういうことしか頭にない女だから。
 ほんっとお前とは正反対の女だよ」

 溜息をつく忠尚を透子は睨む。

「なによそれ、私に色気がないっての?」

 そうじゃないよ、と言いながら忠尚は、透子の口の傍についたアイスを指で拭ってやる。

 和尚は、むっとしたが、口に出して文句を言うわけにもいかないので、別のことで反逆することにした。

「じゃあ、なんでそんな女と付き合ってるんだよ」

 透子の前で、じゃあとか付けるな、と睨んでくるが、どうせ、こんな鈍女にわかるわけもない。

「なんで、か……」
と忠尚が呟いた。

「だから、かな」

 その目は、工場の煙突の上でキラキラと点滅する光を見ていた。

 こいつも結構複雑なのかなと思って見ていると、

「あっ、こらっ。
 みんな食うんじゃねえっ」
といつの間にか透子の手にあった自分のアイスを慌てて取り返している。

「お前、ほっそいくせに、こういうもんだけ、よく食うよなあ」

 あーでもね、と透子はプラスチックのちゃちなスプーンを振りながら言った。

「いつか食べた。
 こーんなお皿いっぱいの、ケーキとアイスとえっと、後なんだっけ。

 ともかく、ありとあらゆる洋風の甘いものが乗ってるセット!

 晩御飯代りに空きっ腹に食べたときばかりは、吐くかと思ったわ」

 男二人は聞いてるだけで、吐きそうになって、口許を押さえた。

「ああ、具合悪いんなら、私が運転してあげようか」

 結構だっ! と、忠尚はテーブルの上に置いておいたキイを透子に獲られないうちに掴んで立ち上がる。

「四車線道路を真横に突っ切るような車線変更をしなくなったら、運転させてやる」

「車居ないときはいいじゃない」

「そういう問題じゃねえだろ……。

 和尚、たまには運転しろよ。
 俺が飲んだときとか、この馬鹿が運転するって言い出さないように」

「俺が触ると、よく電気系統のものが壊れるのを忘れたのか?」

「……壊すんなら、カウンタックにしてくれ。

 親父、煩いから」

「ちょっと。
 あれ本当に電気系統壊れやすいんだからね」

 洒落にならないこといわないでよ、と言いながら、遅れて透子も立ち上がる。

 その額に視線を這わせても、ぱっと見には、封印のことなどわからない。

 この俺に気づかせないとはさすが婆だ、と妙なところで感心する。

 だが、薫子が死んでもう二年、何故、この封印は生きた植物のように生々しいのだろう。

 普通、年数を経れば、何処かに綻びが出てくるはずなのに。

 誰かが補充をしているとしか思えない。

 だが、一体、誰が――?

「よお、天満てんまさんとこ寄ってくか?」
 店のドアを押しながら、忠尚が言った。

 天満というのは義隆の弟で、若い頃、さんざん海外で放蕩し尽くした挙句に、町外れに小さな漢方薬局を開いた龍造寺の変わり種だ。

「珈琲くらいなら出してくれるんじゃねえか」

 でも、もう遅いよ、と透子が忠尚の後ろをついていきながら、その服を引っ張る。

「大丈夫だよ、あのおっさん遅くまで起きてごそごそしてるから。

 一人もんだから、気楽なんだろ」

「天満さんって、モテそうなのに、なんで独身なのかしら」

「だから……モテるからだろ?」

 ちょっとの沈黙のあと、透子と二人囁き合う。

「忠尚が言うと、なんだか含蓄があるわね」
「含蓄があるっていうのか、そういうの」

 うるせえっ、と忠尚が振り返り叫んだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。

リラ
恋愛
 婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?  お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。  ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。  そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。  その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!  後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?  果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!? 【物語補足情報】 世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。 由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。 コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...