1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ

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なんだかんだで魔法が使えました

調理魔法の行方

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 いい匂いがし始めた、と思いながら、アキは仔うさぎに餌をやっていた。

「ん?
 ちょっと足らないかな。

 おい、社畜。
 手伝え」
と言うイラークの声が厨房から聞こえてくる。

 一心不乱にキャベツを噛んでいる仔うさぎを見ながら、

 どうしよう。
 社畜で定着しそうだ……、とアキは怯える。

「一応、それ、うちの王子妃なんで」
 皿を運びながら、ラロック中尉が言ってくる。

 いや、貴方も結構な地位にある人なのでは?
と思ったが、更に、その後ろでは、いそいそと王子が皿を運んでいた。

 王子……と見つめると、王子はちょっと恥ずかしそうに言う。

「いやいや。
 だって早く食べたいじゃないか」

 王子が運んでいらっしゃるのにっ、とそれを見て、兵士たちもせっせと働いていた。

 うーん。
 この人、意外といい上司なのだろうかな、とアキは思う。

 うちの部長とかとは大違いだな。

 上司が率先してやるから部下も慌ててやる。

 口で命じるよりいいか。

 上司があまり働きすぎても厄介だが。

 しかし、自分のことは自分でするいい夫になりそうだな、とうっかり思ってしまう。

 いや、本当に結婚するわけではないし、そもそも城で暮らすのなら、私が家事をする必要はなさそうなのだが……。

 そんなことを考えていたアキを厨房からイラークが手招きしてきた。

「社畜、切れ。
 ミカが出かけてるから」

 はいはい、と包丁で野菜を刻み始めると、
「ヘタクソ。
 魔法で切れ」
と横で他の料理に味付けしていたイラークが言ってくる。

「いやあ、でも、あれ使うと、アンブリッジローズ様がやってきませんかね?」

「あのときはあの方の力をお前が勝手に流用したからだろう。
 自分の力でやれと言ってらしたじゃないか」

「自分の力でやれって、自力で切れって意味じゃないんですかね?」

「さあな。
 やってみろ」
と言われ、アキは大量の野菜に向かい、手を伸ばそうとしたが、

「待て」
とイラークに止められた。

「芋は角切り。
 こっちの葉物は千切り。

 こっちはザク切りだ」

 そう指差して言われる。

「細かいですね~」
と文句を言ったあとで、アキは手を野菜の山に向かって伸ばし、

「角切り、千切り、ザク切りーっ」
と叫んだ。

 パッと野菜が切られてバラバラになる。

「おお、すごいではないか」
 やってきた王子が言った。

「またアンブリッジローズ様が高速でやってきて、切って逃げてるんじゃないですよね?」

 アキが、まだターボばばあの仕業かと疑いながら、おそるおそる大量の野菜を見ていると、王子が言ってきた。

「しかし、アンブリッジローズ殿は何故、お前にこんな力があると知っていたのだろうな?」

「やっぱ、異世界人だからですかね」
 そう言ったとき、裏木戸が開いて、ミカが現れた。

 手には竹の大きなザルを持っている。

「とって参りましたっ、アンブリッジローズ様っ。
 海老でございますっ」

「えっ? とって来た?」

「ミカがお前のために、海で漁をしてきたらしい。
 心して食え」

「……すごすぎですよ、ミカさん」

「お前が海老が好きだとこの間言っていたからだ」

「海老。

 かつて、有名なカップ麺を開発するとき、日本人は海老好きだから、海老さえ入っていれば大丈夫と開発者が言ったとか言わないとか。

 少なくとも私は喜びますね」

「なんの話だ」

「カップ麺です。
 今度作ってみましょう、イラーク様。

 そうだ。
 イラーク様の料理をレトルトとか、フリーズドライでいつでも食べられるようになったら素晴らしいですよね。

 私、実は食品会社に勤めているのです。

 いえ、総務なんですけどね」

 自分の世界の人間が聞いていたら、じゃあ、関係ないだろうと言われそうだが。

 工場の見学に来る人たちに説明する仕事もあるので、だいたいの作業工程はわかっている。

「お前は何処に向かって走っていっているのだ……」
とまだ皿を運んでいる王子が言い、

「偽アンブリッジローズがまた訳のわからないことを言い出す前に食事にしよう。
 海老は今から調理するから、お前たち、先に食べていろ」
とイラークが言った。

 とりあえず、海老の皮を魔法でむける方向に走っていきたいかな……とまだ竹のカゴの中でゴソゴソしている海老を見ながらアキは思っていた。

 食べるのは好きだが、むくのは面倒臭いからだ。


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