1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
1 / 97
酔って蔵に入ったら、異世界に飛んでいました

魔女に王子に嫁げと言われました

しおりを挟む

「わかった!
 私に合うような男はきっと今のこの日本には居ないのよっ」

 などと口走りながら同期と呑んで帰ったアキは、家と蔵を間違えて入ってしまった。

 運悪く蔵の鍵も持っていたのがまずかった。

 家の鍵と蔵の南京錠とでは開け方も違ったはずなのだが、気づかなかったところがもう相当酔っていた証拠だ。

 暗いなあ……。

 高い位置にある明かりとりと入り口から差し込む月明かりしかない、だだっ広い蔵の中。
 アキは、ぼんやり突っ立っていた。

「おじいちゃーん?」

 まだ家だと思っているアキは一緒に住んでいる祖父を呼んでみた。

 アキは祖父母と住んでいるのだが、祖母を呼ばないのは、遊び歩いていないことが多いからだ。

「おじいちゃん、電気つけなきゃ、暗いよ。
 大丈夫~?」
と、いや、お前が大丈夫か? と問われそうなことをひとり蔵の中で叫ぶ。

 夜の土蔵、ひんやりして寒いな~と思いながら、アキは手探りで電気のスイッチを探してみた。

 だが、広い蔵の中のことだ。
 壁は遠い。

 そのとき、手がふわっとした布のようなものに当たった。

 ……なんだろう? 一反木綿いったんもめん

 秋のの肌寒さにちょっとだけ正気に戻ったアキはスマホのライト機能を使い、その一反木綿を照らしてみた。

 ……五反ごたん居るようだ。

 ずいぶん派手な一反木綿だなとゆっくりとスマホを動かしてみながら、アキは全体をライトで照らしてみる。

 赤、白、金で染められた布だった。
 中央には見慣れない金色の紋がある。

 これって、花嫁のれんじゃないのかな?

 加賀藩の辺りで結婚式のとき、花嫁がくぐるのに使われているのれんだ。

 お母さんのだろうか? とアキは思った。

 だが、中央の紋は花嫁の実家の紋のはずなのだが、これには見たこともないような紋が入っていた。

 こんな紋、日本にあったっけ?

 月桂樹の冠の中で、鷹が三羽向かい合っていた。

 それにしても、花嫁のれんか。
 私がくぐることなどあるのだろうかな。

 そんなことを思いながら、アキはひょいとその赤白の一反木綿をめくってみる。

 蔵の中は暗いはずなのに、その向こうだけ、ぼんやり明るく見えた。

 明かりに吸い寄せられる虫のように、アキはそののれんをくぐっていた。
 なんの考えもなしに。

 肌寒さにちょっと正気に戻ったと思ったのは気のせいだったようだ――。



 次の瞬間、アキは青白い光に照らし出された狭い部屋の中に居た。

 すぐそこにある窓に視線をやると、森の木々が随分下の方に見えた。

 高い塔の中のようだった。

 目の前に青紫のローブをまとった魔女っぽい老婆が居て、アキを見上げ、びっくりしている。

 塔の小部屋に、いきなり現れたからだろう。

「娘よ、誰だ」
と老婆は問うておいて、アキの答えを待たずに言ってきた。

「ちょうどいい、娘よ。
 お前、私の代わりに嫁に行ってくれないか?」

 ……なんですと?

 嫁に行ってくれないかもあれなんだが。
 私の代わりにって、なんなんだ……とアキはその老婆を見る。

「いや、実はだな。
 人質代わりに花嫁が欲しいと和平調停中の国が望んできたんだ。

 この国にはもう未婚の若い姫は居ないんだが。

 いろいろ話しているうちに、向こうの国が聞き間違ってな。

 嫁に行っていない王の縁者の娘がひとり居る。
 16歳だと。

 1016歳なんだが。
 どうも1000を聞き逃したようなのだ」

 いや、聞こえていても、幻聴、と思ったのじゃないですかね?
とアキはその小柄な老婆を見た。

 ……1000歳? と思いながら。

「今の王には恩もある。
 小さいときはよく此処に遊びに来ていて可愛かったしな」
と昔を懐かしむように言う老婆にアキは言った。

「あの、貴女は魔女なのでは?
 だったら、魔法で若い美女に変身するとかできないんですか?」

 だが、老婆は、
「今更、男のものになるとかめんどくさい」
と言う。

「それに、1000年以上、ひとりで好き勝手に生きてきたのだ。
 今更、男に気を使って生きるのはしんどいぞ」

 まあ、それはそうかもですね~、と最近結婚した先輩の愚痴を思い出し、アキは苦笑いした。

「そんなことより、お前、あれをくぐってきたのだろう」
と魔女が後ろを振り返る。

 そこには例の花嫁のれんと同じものがあった。

「お前はあれをくぐることによって、生家との縁を切ったのだ」

 ええっ? とアキはそのペラペラした布を見る。
 何故、これをくぐっただけでっ? と思ったのだ。

「お前はそれで此処にたどり着いた。
 この地にお前の運命の相手が居るかもしれないぞ」

 えっ?
 そうなんですかね?

 って、こんな謎な場所に運命の相手とか居てくれても困るんですけどっと思ったとき、部屋の入り口の木の扉が開いた。

 あまりこういう男の人が理想、というのはなかったのだが。

 たまにテレビなどで俳優の人とか見て、

 あ、この人の目が好きだな、とか。

 口許が好きだな、とか、雰囲気が好きだな、とか、胸板が好きだな、とか。

 この声、なんか頭にすっと入ってくるし、素敵だな、とか思ったところをすべて掛け合わせたような男がそこに居た。

 しかし、ひとつ残念なことがアキにはあった。

 そのイケメンが、なんか王子っぽい格好をしていたことだ。

 とても似合っているのだが、いつもスーツ姿のサラリーマンに囲まれ。
 上着を脱いでシャツを腕まくりとか格好いいなと思ってる自分には、ちょっと違和感があった。

「うーむ。
 この王子とだったのか」
とその黒髪のイケメン王子を見て老婆が呟く。

「今からどうですか?」
と一応、訊いてみたのだが、ああいや、いいわ、と老婆は言う。

 そのとき、
「私の花嫁は何処だ」
とその王子が言ってきた。

 ずい、と老婆がアキの背を押した。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...