あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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捌 あやかしのあやかし

なにかが起こるんですかね……?

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「そういえば、御船印ってなんですか?」

 老婆のあとをつけながら壱花は冨樫に訊いてみた。

「船の御朱印みたいなもんだ」
と言う冨樫に、船であやかしを追っていたせいもあり、

「それ集めるとなにかが起こるんですか?」
とうっかり訊いてしまう。

「……なんでだ。
 何故、船会社になんでそんな力があると思う」

 もっともなことを言う冨樫に、そりゃそうですよね、と思いながらも壱花は言った。

「でも、なにか船って不思議なことが起こりそうな雰囲気がありますよね」

「どの辺に不思議な雰囲気がある」

 相変わらず、追求厳しい倫太郎が突っ込んで訊いてきた。

「え……。

 えーと……

 あ、ほら、何故か海に浮いてたりするし」

「人も海に浮くよな」

「……すごく重いのに浮いてたりするし」
と壱花は言い換えた。

 いかにも今、考えました、な感じになってしまったな、と思ったとき、案の定、倫太郎が更にケチをつけてきた。

「海に浮いてるだけで不思議な感じがするのなら、飛行機の方がもっと不思議な感じがするんじゃないか?
 あっちは空飛んでるんだからな」

 そこで、壱花はふと思いつき、訊いてみる。

「そういえば、御船印があるのなら、御飛行機印とかあるんですかね?」

「ないんじゃないか? 語呂が悪いから」

 そんな理由でですか……? と思いようなことを倫太郎が言い、

「飛行機関係の神社の御朱印ならあるぞ」
と冨樫が言った。

 ……飛行機関係の神社の御朱印か。

 それを集めたら、なにかが起こるのだろうかな?

 空飛ぶあやかしが現れるとか、と思う壱花の頭の中では烏天狗が御朱印帳から、どろんと現れていた。

 そのとき、
「あ、あの老婆、立ち止まりましたよ」
と冨樫がみんなに教えてくれる。

 老婆はゲームセンターで足を止めているようだった。

 ゲームセンターの真ん中あたり。
 子どもたちが群がっているボールすくいをじっと見つめている。

「……なにしてるんでしょうね?」

「ちょっと様子を見るか」

 なにもしないでゲームセンターにいるのは不自然なので、壱花と倫太郎はメダルゲームをはじめた。

 冨樫はクレーンゲームでぬいぐるみをとっている。

 老婆はまだ、水流でぐるぐる回っているボールを見つめてた。

 クレーンで小さなボールを持ち上げてとるゲームで、水とボールは半円の透明なドームで覆われている。

「なにしてるんでしょうね」

 壱花はそちらを窺いながら呟いた。

「そして、私はなにをしているんでしょうね。
 メダル、あっという間になくなってしまったんですけど」

 メダルゲームはやったことがないので、なにがどうなるのかわからないまま、すべて負け。

 メダルは全部ゲーム機に吸い込まれていった。

 たくさんメダルを出している倫太郎が、無言で壱花が持っているカップにザラザラと入れてくれる。

「あ、ありがとうございます……」
と礼を言いながら、壱花はまた、無駄にメダルをゲーム機に突っ込んだ。



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