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陸 京都あやかし地図
やはり……、おそるべし京都
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……カニ。
すべての悩みや迷いを吹き飛ばしてくれるのではなかったのですか、カニ。
と煮られたカニと焼かれたカニに多くのものを背負わせているうちに、閉店時間が来て、朝が来た。
ぼんやりした頭のまま、一度行ってみたかった朝がゆで有名なお店に行って、朝食を食べる。
今回はお留守番ではなく、ちゃんと会議にもついて行った。
此処でぼんやりしていると、木村さんに怒られるな、と思い、真面目に話を聞いていて、どっと疲れた会議の終わり。
会場を出ながら、倫太郎が壱花を振り向き、言ってきた。
「ほら、壱花早くしろ。
神社に寄っていくんだろ」
倫太郎の顔をしばらく眺めたあとで、壱花は言った。
「やっぱりいいです」
「いい?
結婚はもう諦めたのか」
「彼氏作るの、もう諦めたのか」
と倫太郎と冨樫がたたみかけるように訊いてくる。
いや、なんで神頼みしないと永遠にできない話になってるんですかね……と思いながらも、壱花は言った。
「いいです。
なんかもう、桜が咲き始めてるみたいだから、鴨川で桜でも眺めて。
美味しいもの食べてみんなにお土産買って帰りましょうっ」
「待て。
あやかし地図の世界以外は、昨日もちょっと咲いてたぞ、桜。
お前、ほんとにフレンチとかき氷とパンしか眺めてなかったなっ?」
と倫太郎に言われる。
いや、パンは行ってないじゃないですか、ねえ……と思いながらも壱花は言った。
「そうだ。
いいお土産物屋さんがあるって、高尾さんが教えてくれたんですよ」
スーツのポケットをゴソゴソやりながら、
「場所がわからないって言ったら、高尾さんが地図を書いてくれて……」
とその地図を出そうとする。
「やめろ、莫迦っ」
「開くなっ」
と二人が慌てて壱花の手からそれを取ろうとしたせいで、地図は壱花の手から離れてしまった。
「あっ」
駄菓子屋にあった怪しげに変色していた和紙に書かれた地図が開き、ふわりとアスファルトに舞い降りた。
目の前に色白で、切れ長の目の美しい男が現れる。
狩衣を着たその男は言った。
「我が名は安倍晴明。
さあ、主らを京の禁断の地へとお連れしよう」
「……本物、な、わけないですよね」
と壱花が言う。
「駄菓子屋にあった紙だろ?」
高尾が子どものような絵と字で描いた地図の下に、うっすら色褪せた双六のようなものが見えた。
「……ゲームに決まってる」
とその紙といきなり現れた陰陽師を見ながら倫太郎が言った。
「だいたい、安倍晴明が親切に禁断の地を案内してくれると思うか?」
「いや、なんだかんだで公務員ですからね、陰陽師」
と冨樫は陰陽師をまるで役所のなにかの係の人のように語る。
そんなこちらの言動はまったく気にせず、決められた台詞を言うように安倍晴明は言ってきた。
「この双六の参加者たちは名を名乗るがよい。
最初に上がったものの願い事をひとつ叶えてやろう」
倫太郎が壱花を手で示して言う。
「こいつは、化け化け壱花だ」
「花花ですよーっ」
「風花では……?」
と冨樫は言ったが、もう最初に倫太郎が言った名前で登録されてしまったようだ。
「祈願どころか、ゲームも違う名前で始めるとは。
やっぱり、叶わないんじゃないか? 願い事」
と冨樫がちょっとだけ同情気味に言ってきた。
叶うか叶わないかはわからないが。
どのみち、クリアするまで京都から帰らせてもらえそうにない。
「やはり……、おそるべし京都ですね」
「おそるべし高尾だろ……」
と言う倫太郎たちも登録され、またあやかしいっぱいの裏京都に壱花たちは呑み込まれてくのだった――。
『陸 京都あやかし地図』完
すべての悩みや迷いを吹き飛ばしてくれるのではなかったのですか、カニ。
と煮られたカニと焼かれたカニに多くのものを背負わせているうちに、閉店時間が来て、朝が来た。
ぼんやりした頭のまま、一度行ってみたかった朝がゆで有名なお店に行って、朝食を食べる。
今回はお留守番ではなく、ちゃんと会議にもついて行った。
此処でぼんやりしていると、木村さんに怒られるな、と思い、真面目に話を聞いていて、どっと疲れた会議の終わり。
会場を出ながら、倫太郎が壱花を振り向き、言ってきた。
「ほら、壱花早くしろ。
神社に寄っていくんだろ」
倫太郎の顔をしばらく眺めたあとで、壱花は言った。
「やっぱりいいです」
「いい?
結婚はもう諦めたのか」
「彼氏作るの、もう諦めたのか」
と倫太郎と冨樫がたたみかけるように訊いてくる。
いや、なんで神頼みしないと永遠にできない話になってるんですかね……と思いながらも、壱花は言った。
「いいです。
なんかもう、桜が咲き始めてるみたいだから、鴨川で桜でも眺めて。
美味しいもの食べてみんなにお土産買って帰りましょうっ」
「待て。
あやかし地図の世界以外は、昨日もちょっと咲いてたぞ、桜。
お前、ほんとにフレンチとかき氷とパンしか眺めてなかったなっ?」
と倫太郎に言われる。
いや、パンは行ってないじゃないですか、ねえ……と思いながらも壱花は言った。
「そうだ。
いいお土産物屋さんがあるって、高尾さんが教えてくれたんですよ」
スーツのポケットをゴソゴソやりながら、
「場所がわからないって言ったら、高尾さんが地図を書いてくれて……」
とその地図を出そうとする。
「やめろ、莫迦っ」
「開くなっ」
と二人が慌てて壱花の手からそれを取ろうとしたせいで、地図は壱花の手から離れてしまった。
「あっ」
駄菓子屋にあった怪しげに変色していた和紙に書かれた地図が開き、ふわりとアスファルトに舞い降りた。
目の前に色白で、切れ長の目の美しい男が現れる。
狩衣を着たその男は言った。
「我が名は安倍晴明。
さあ、主らを京の禁断の地へとお連れしよう」
「……本物、な、わけないですよね」
と壱花が言う。
「駄菓子屋にあった紙だろ?」
高尾が子どものような絵と字で描いた地図の下に、うっすら色褪せた双六のようなものが見えた。
「……ゲームに決まってる」
とその紙といきなり現れた陰陽師を見ながら倫太郎が言った。
「だいたい、安倍晴明が親切に禁断の地を案内してくれると思うか?」
「いや、なんだかんだで公務員ですからね、陰陽師」
と冨樫は陰陽師をまるで役所のなにかの係の人のように語る。
そんなこちらの言動はまったく気にせず、決められた台詞を言うように安倍晴明は言ってきた。
「この双六の参加者たちは名を名乗るがよい。
最初に上がったものの願い事をひとつ叶えてやろう」
倫太郎が壱花を手で示して言う。
「こいつは、化け化け壱花だ」
「花花ですよーっ」
「風花では……?」
と冨樫は言ったが、もう最初に倫太郎が言った名前で登録されてしまったようだ。
「祈願どころか、ゲームも違う名前で始めるとは。
やっぱり、叶わないんじゃないか? 願い事」
と冨樫がちょっとだけ同情気味に言ってきた。
叶うか叶わないかはわからないが。
どのみち、クリアするまで京都から帰らせてもらえそうにない。
「やはり……、おそるべし京都ですね」
「おそるべし高尾だろ……」
と言う倫太郎たちも登録され、またあやかしいっぱいの裏京都に壱花たちは呑み込まれてくのだった――。
『陸 京都あやかし地図』完
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