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弐 当たりクジ
冨樫が出たぞ~
しおりを挟む壱花が出て行ったあと、閉まった扉を見ながら倫太郎は思う。
なにが私を癒してくださいますか、だ。
甘えるな、莫迦者め。
「失礼します」
と入ってきた木村がこちらを見てちょっと笑うと、
「社長、なにかいいことありました?」
と言ってくる。
いやない。
なにもないぞ。
いや、本当に……と思いながら、倫太郎は、みんなが置いて行った書類に目を通すフリをした。
「冨樫が来たぞー」
船が出るぞー、くらいの感じで駄菓子屋の入り口付近にいた誰かが叫んだ。
誰かがって、まあ、あやかしだ。
さっきから私たちがやっていることを物珍しそうにみんな眺めていたのだ。
小柄なぬっぺっぽうがずっとボウルの中を覗いていて怖い、と壱花が思ったとき、倫太郎が言った。
「貸せ。
やっぱり俺がやるっ」
倫太郎は、あやかしに囲まれ、カウンターに背を向けるように立つ壱花がのたくた泡立てていたボウルを取る。
氷水の入ったボウルに重ねたもうひとつのボウルで生クリームを泡立てはじめた。
あっという間に、八分立てになる。
「うう。
ありがとうございます。
しかし、できる人は何故、分野に関わらず、なんでもすぐできてしまうんでしょうね」
極まれにケーキなど作るときもあるのだが。
絞り出すだけのホイップクリームを使っているので、生クリームを泡立てたことはあまりなかった。
パフェはすでに、ほとんど倫太郎の手により、美しく出来上がっている。
あとは壱花の泡立てていた生クリームの飾り付けを待つのみだ。
「冨樫が来るぞー」
わかったわかった、と倫太郎は言い、生クリームを袋に入れ、たっぷりと絞り出す。
そこに少しかぶせるようにメロンをのせた。
しかし、やっぱり来たのか、冨樫さん。
突き放したように言ってはいたが、やはり、相当、お父さんのことが引っかかっているのかもしれないと壱花は思う。
「冨樫が来たぞー」
「あっ、さくらんぼ、のっけてませんっ」
「缶開けろ、壱花っ」
「はいっ」
「冨樫が覗いているぞ~」
壱花は振り向く。
真後ろに冨樫が立って、壱花たちの手許を覗いていた。
ひいいいいっ。
壱花が缶切りで開けたさくらんぼの小さな缶から、さくらんぼを出した倫太郎が、昔のレストラン風のゴージャスなパフェの上にぽん、とのせる。
いや、冨樫が昔食べたのがこんなのだったかは知らないが。
「デパートのパフェといったら、こういうイメージだし。
派手な方がいいだろ」
と倫太郎が言ったので、これになったのだ。
「さあ、食え、冨樫」
と倫太郎は言ったが、冨樫は呆れたように言う。
「だから、パフェは嫌いだと言ったじゃないで……」
拒絶するそのセリフは途中で止まった。
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