あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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弐 当たりクジ

あやかしとか信じてるんですか?

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 壱花と倫太郎と冨樫と、冨樫に見えていない高尾とで、文字焼きを作ることになった。

 時折、買い物に来たあやかしも混ざる。

「冨樫さん、高尾さんが見えてないと不便ですよね」

「……ああ、ボウルが宙に浮いている」
と冨樫は呟く。

 水と小麦粉を入れたボウルを手に、高尾が笑っていた。

「服はなんで見えないんだろうね~。
 服だけ見えたら、透明人間みたいで面白いのに」
と言う。

「透明人間ってあやかしなんじゃないですかね?
 人には見えないあやかしがごそごそなにかやってると、

 はっ、透明人間っ!
 って思うんじゃないですかね?」

「さあ、知らないけど。
 この彼にはガラス越しなら僕が見えるらしいし。

 どうなってるんだろうね」
と言いながら、高尾は冨樫を惑わすように、ボウルをぐるぐる回しはじめた。

 思わず目で追う冨樫に、
「冨樫さん、見ちゃ駄目ですよ。
 目が回りますよ」
と言って、

「トンボか……」
と倫太郎に言われる。

「あ、とりあえず、これかけたらどうですか?」
と言って、壱花は高尾にあのキツネの面をかけさせた。

「……風花。
 位置はわかりやすくなったが、キツネの顔とボウルが浮いてて不気味さが増してるんだが」

「そうですか、すみません。
 まあ、ぶつからなくていいじゃないですか」
と笑って、冨樫に、

 相変わらず、適当な奴め、という顔をされた。

 泡立て器を頼むのを忘れたので、みんなでカシャカシャ菜箸で混ぜ、ストーブに垂らして焼いてみる。

「おっ、甘いいい匂いが」
と倫太郎が言う。

 ジューッと落とした瞬間にもう、甘い香りが店中に漂っていた。

「なんかおばあちゃんちで、甘辛い魚の干物みたいなのストーブで焼いてもらうときみたいですね。

 あれもすごい香ばしいいい香りが立ち上って、幸せな気持ちに……

 あ、そうだ。
 鰻屋さんは煙と匂いで人を呼ぶって言うじゃないですか。

 ガラス戸開けて、この甘くて香ばしい匂いを外に出したら、つられてお客さんたくさん来ませんかね?」

「寒いだろうが」
と倫太郎が言い、

「大挙してなんだかわからないものが押し寄せてきたらどうする」
と冨樫が言う。

 倫太郎は静かにお玉から生地を落として、『り』の字らしきものを描いており、冨樫は息をつめてそれを見ていた。

「あのー、冨樫さん。
 意外に普通にこの店に溶け込んでますが、冨樫さん、あやかしとか信じるんですか?」

 そう壱花は訊いてみた。

「いや、なにも信じない」

「見えてないんですか?」

「……俺の後ろになんだか生臭いものがいるのはわかる」
「ちょっと振り向いて見てください」

「見たくない」
「見てください」

 冨樫は面倒臭そうに振り向いた。

 小さい河童の子どもがいた。
 すぐに前を向く。

「見えてるんですか?」
「……子どもがいるようだ」

 河童の、とは言わなかった。

 そこは認めたくないのかもしれない。

「見えないのは高尾さんだけなんですかね?
 それか、河童だけ見えるとか?

 冨樫さんは実は河童である。
 それか、河童族のかたきの種族である、とか?」

「なんなんだ、河童の仇って……」
とストーブの上を見ながら、冨樫が眉をひそめる。

「そういえば、お前、小学校のときのあだ名が沙悟浄さごじょうだってって、呑み会のとき言ってたよな」
と言いながら、倫太郎が文字焼きをフライ返しで取り上げる。

 よしっ、上手くできたっ、と喜び、『り』の字を、
「ほら」
と河童の子どもにやっていた。

「沙悟浄は河童じゃないですからね」

 日本人は河童だと思ってるけど、お坊さん型の水の妖怪ですよ、と冨樫が言う。

「それにしても、僕だけ見えないとか、意味深だねえ」
と高尾は笑いながら、

「次やってみなよ」
と自分が見えていない冨樫にいきなりボウルを突き出し、ビビらせていた。

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