OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる見学会

指輪を買わねば

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 夢のせいで、勝手に駿佑がハラハラしている昼休み。

 みんなが集まった小会議室で、万千湖は弁当箱も開かずに溜息をついていた。

 あの白雪が溜息をっ。
 どうした、冷凍食品がレンジで爆発したのか?

 それとも、指輪のせいかっ?

 俺の母親のお前への愛が重いのかっ。

 俺の愛、ではないのだが……。

「どうしたの? 万千湖」
と安江が万千湖に訊いてくれる。

 ありがとう、柴田、と駿佑が思ったとき、万千湖が言った。

「いや~、ついに当選番号見てみたんですけど。
 この間買った宝くじもあっさりはずれてまして」

 ……死ぬほどどうでもいい話だったな。

 っていうか、当たる気マンマンだったのか。

 期待ばかりをかけられて、七福神様もいい加減気が重いだろうよ……と駿佑が思ったとき、

「宝くじ当てて、課長に早くお金、返したかったんですけどね」
と万千湖が溜息をついた。

 それはもしや、さっさと金を返して、俺とは手を切りたいということかっ? と駿佑は焦る。

 もちろん、万千湖は単に、いつまでもお借りしていては申し訳ないと思っていただけだったのだが。

 昨日からずっと、気持ちがざわついていた駿佑は、このとき思った。

 指輪を買わねば。

 自分でも何故なのかはよくわからないが、白雪に指輪を買わねば。

 母親がじゃなくて、ちゃんと俺が――。

 こいつはたぶん、ラーメン屋の冷水機か回転寿司のお湯がでる蛇口を買ってやった方が喜ぶんだと思うが。

 それはそれとして、指輪は買わねば。

 そう思った駿佑は、昼休みの終わり、万千湖に、
「今日の夜、空いてるか?」
と訊いてみた。

「指輪を買いに行こう」

「あー、美雪さんの手前、買わないわけにはいかなさそうですもんね。
 あっ、じゃあ、私が買いますよ。

 それで買ったってことで」

「お前、今、金ないだろうが」

「ちょこっとした指輪を買いますよ。
 私がこれがいいって言ったと美雪さんには伝えてください。

 自分で払うので、指輪の代金分は課長がとって。
 残りを美雪さんにお返しされてはどうですか?」

「いや、あの金は全額母親に返す。
 お前の指輪は俺が買うから」

「……何故ですか?」

 じゃあ、買わなくていいじゃないですかと言う顔で万千湖が見上げてくる。

「買わないとおさまらない感じだが。

 お前の指輪を買うのに、親に金を出させるのは、なんか違うと思ったからだ。

 いいから黙って、お前が一番いいと思う指輪を買え」

 そう駿佑は万千湖に言った。


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