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ささやかなる弁当
みんなで、カラオケに行こう!
しおりを挟むそして、その日はやってきた。
仕事帰りにみんなで新しくできたカラオケ店に行く。
瑠美と綿貫が受付をしてくれている間、駿佑は白雪がマイソングを歌い出しても笑い出さないようにしよう、と誓い、
万千湖は万千湖で、課長が無表情にマラカスを振り出しても笑うまい、と心に誓っていた。
「カラオケ、久しぶりだわ~」
新しく綺麗なカラオケルームに瑠美のテンションが上がっている。
「ここ、食べ物もおいしそうですね」
万千湖がピカピカのメニュー表を見ながら浮かれていると、瑠美が、
「あんた、食べてばっかりいそうね。
景気づけにまず歌いなさいよ、アイドル」
と言ってくる。
……この人もだ、と万千湖は思った。
何故、この会社の人たちはみな、アイドルという言葉を蔑みに使ってくるのだろうか。
「え? アイドルってなに?」
となにも知らなかった綿貫が訊いてくる。
「万千湖、生意気にもアイドルやってたんですよ」
別に綿貫にはバラしていいかと思い、そう瑠美にも言ってあった。
「ご、ご当地アイドルですよ」
ええーっ、すごいじゃないーっ、と綿貫は叫ぶ。
「どうりで可愛いと思ったっ」
いや、どっちかって言うと、うちはキャラが強いとか、癖があるとか。
そういうので押してた気が……と思う万千湖の横で、雁夜が、
「『涙のショコラティエ』でいいかな?」
とスマホを手に笑顔で言ってくる。
雁夜はスマホにカラオケ用アプリを入れてるようで、スマホから直接、選曲できるようだった。
横から駿佑が覗き込み、
「本当にあるのかっ、カラオケに白雪の曲がっ」
と叫ぶ。
私の曲っていうか、「太陽と海」の曲ですけどね。
「これ、ライブ映像みたいだよ」
と雁夜が教えてくれる。
すぐに映像がはじまった。
「万千湖、どれっ!?」
「この歌では、センターのサヤカちゃんの左隣だよ」
雁夜の言葉に、みんなが身を乗り出して見る。
「ツインテール!」
「髪黒っ、長っ!」
「っていうか、メガネッ娘!?」
「目も黒いっ。
あんた、カラコン!?
今がっ? このときがっ!?」
叫んでいるのは主に綿貫と瑠美だったが。
……冷静に見ると恥ずかしいな、と万千湖は照れる。
いつもライブ映像は、反省会みたいな感じで黒岩さんたちと見てたから。
これは大きなフェスに参加させてもらったときの映像だった。
万千湖たちは二列に焦茶のボタンが並んだ白いミニのワンピースを着て、焦茶のベレー帽を被っていた。
それを見た駿佑が、
「なんだ、この衣装は」
とケチをつけてくる。
「ショ、ショコラティエ風の衣装です」
「こんな短いスカートのショコラティエがいるか」
いや、そうなんですけどね……。
「いいじゃんっ。
めちゃ脚綺麗っ。
いや~っ、びっくりっ。
白雪さん、ほんとに元アイドルなんだっ?
えーっ、近寄りがたくなっちゃうな~」
とはしゃぐ綿貫に、
「どの辺が近寄りがたい?」
と駿佑が冷静に訊いている。
……すみません、もうやめてください、と思ったとき、歌がはじまった。
なんか知ってる人の中で歌うの恥ずかしいけど。
でも、よく考えたら、最初は商店街のおじちゃんおばちゃんの前だけで歌ってたわけだから似たようなもんか。
「今、お前ひとりだけフリ違ったぞ」
という余計なツッコミが入ってくるのも当時のままだな……と思いながら、万千湖はなんとか一曲歌い切った。
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