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ささやかなる弁当
森のオープンカフェは取材中
しおりを挟む日曜日、万千湖は大型書店で瑠美たちと待ち合わせていた。
「ちょっと買いたいものがあるから店に入るわ」
と言うので、眺めていた雑誌コーナーから入り口に移動する。
だが、瑠美が入ってくる気配はなかった。
「おかしいな~。
瑠美さん、何処だろ」
と呟いたとき、目の前にセミロングの髪の女性が立った。
マジマジと顔を見る。
「瑠美さんじゃないですかっ」
「毎日顔突き合わせてるのに、なんでわかんないのよっ」
「いえ、髪をまとめてらっしゃらなかったので」
「……あんたの人間の識別、髪型?」
大丈夫? 職場の人の顔わかってる?
と訊かれてしまう。
「ああ、フロア全体では、女性の方、すごくたくさんいらっしゃるのでまだ全員は……」
「うちのフロア、女性はそんなにたくさんいないわよ!?」
それは、毎度髪型が変わってる人か、霊よっ、と言われてしまう。
「いつも同じ髪型の人はわかります」
と遅れて入ってきた安江を見て、
「ちょっと、万千湖?」
と睨まれてしまった。
いえいえ。
その髪型、お似合いですよと褒めたかったのですが、と思いながら、瑠美に、
「今日は我々だけですか?」
と訊いてみる。
「たくさん連れてって、イケメンが他の子いいって言ったらどうすんのよ」
えっ? と安江と二人訊き返す。
「それどういう意味?」
「我々は問題外という意味ですか?」
「さ、行くわよ~」
と瑠美は可愛いポーチが付録の雑誌を買ったあと、さっさと店を出て行った。
爽やかな……
というか、この季節になると、ちょっと……、かなり寒い森のオープンカフェ。
コートの前をかき合わせ、車から降りながら安江が言う。
「今日は激しく二人に傷つけられたから、二人のおごりね」
「私もですか?」
と万千湖は訊いた。
「いつも同じ髪型って言うからよ」
「いや~、その髪型お似合いなんで、いつも一緒でいいじゃないですか。
私もいつも同じですよ」
前は変えられなかったしな。
そういう規約だったから……と思いながら、山を上がっていく。
第二駐車場は店から少し離れた場所にあるからだ。
「あ」
となにかに気づいて瑠美が言った。
「また取材かな?
入れるかな。
人気なのね、この店」
そういえば、カメラが……。
機材の準備をしているスタッフたちが見えたが。
その近くに、困ったことに黒岩がいた。
何故、また此処に、と思ったが、100均で言っていた仕事のつづきなのかもしれない。
撮影のために貸切になっているとかではないようで、普通に食事はできるようだった。
店内をぐるっと撮るかもしれないけどいいかと問われる。
「もちろんです~っ」
と瑠美は言ったが、こちらに気づいたらしい黒岩がスタッフに何事が言っていた。
万千湖たちが座った辺りを指差している。
変装している万千湖が映らないよう、あの辺は撮らないでと言ってくれているようだ。
だが、二人は、映らないかなとワクワクしている。
万千湖は目で、黒岩さん、黒岩さん、と呼びかけた。
黒岩が気づいてこちらを見る。
「私、背中向けて座るので、こっち撮ってください」
と万千湖は目で訴える。
さすが長い付き合い、伝わったようだった。
万千湖は、
「安江さん、そこ、映らないですよ。
たぶん、あっち側から撮るので」
ともうスタンバイしているカメラとタレントたちの方を指さした。
「えっ? そうっ?」
代わりますよ、と席を代わったあとで、
「ちょっとトイレ行ってきますね」
と万千湖は立ち上がる。
さりげなく黒岩に礼を言えたら言おうと思ったのだ。
だが、瑠美も立ち上がり、
「私もいっしょに行くわ」
と言って、トイレについてくる。
黒岩は目立たない位置に移動していたが、トイレに行きながら、瑠美が言ってくる。
「さっき撮影の人たちといたの、あんたの上司じゃない?」
「……ス、スポンサーなのかもですね、この番組の」
「なんでスポンサーがタレントの荷物持ったり、飲み物渡してんのよ」
……ですよね~。
瑠美は早くから黒岩に気づいていたようだった。
万千湖はもう誤魔化すことは諦めた。
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