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ささやかなる弁当

幻覚が見えました

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「代行はめんどくさい」
と駿佑が主張するので、結局、酒は呑まないことになった。

 正気な駿佑が返済計画について真面目に話し出したので、万千湖は、

 ……私は代行より、正気な課長がめんどくさいです、と思っていた。

 日記を読んでいた駿佑に浪費を責められたからだ。

「お前、こんなことで借金返済できると思っているのかっ」

 何故、私は取り立て屋に叱られているのでしょう……。

 いえ、まだ借りてないし。

 取り立てられてもいないし。

 課長は親切で貸してくださるのですが。

 なんだかもう、利子高くても銀行で借りてきた方がいい気がしてきました……と思う万千湖は正座し、うなだれて駿佑の話を聞いていた。

 だが、そこで駿佑が、
「おっ」
と言って日記を眺める。

「弁当はいいじゃないか。
 お前、ランチ率高過ぎだからな」

 節約となるだろう、と予言のようなことを言い出す。

「でもあの、付き合いとかもありますからね……」
とごにょごにょ言っていると、その弁当の写真をじっと見ていた駿佑が、

「待てよ。
 この弁当は何処かで見たな」
と言い出した。

「ああ、それは雁夜課長にあげたお弁当ですね。
 その日はほら、ランチに行ったので」
と万千湖は下に書いているランチのメニューを指差す。

「急にランチに行くことになったので、課長にあげたんですよ」

「そういえば、そうだったな。
 それにしても、何故、雁夜に弁当を……?」

「……お腹を空かせてたからですかね?」

「子どもか」

 そう言ったあとも、ふーん、とページをめくっていた駿佑は、時折貼られているお弁当の写真を眺めながら、

「冷凍食品なのに、よく堂々と貼るな」
と悪態をつく。

「だいたい、冷凍食品いっぱい買ってたら、高くつくんじゃないのか?」

「そんなことないですよ。
 ランチに行くよりは安いですよ」
と言うと、また、ふーん、と言う。

 しばらく駿佑は黙ってページをめくっていたが。

「……じゃあ、金払ったら、俺にも作ってくれるか?」
と言う。

「えっ?
 私が課長にですかっ?」

「冷凍食品会社が俺に、の方が正しいかもしれないが。
 俺も家を買うわけだから、少しは節約も必要かなと思って」

「でも、課長は900万でいいわけですよね?
 私が足りないお金を幾らか借りるとしても」

 全額貸してくれそうな感じだったから、1800万は持ってそうなんだが、と思ったが、

「まだあるからって、ずるずる使ってたら、すぐなくなるだろ。
 早め早めの対策が必要だ」
と駿佑は職場で言うようなことを言ってくる。

「そ、そうですね。
 でも、私もいつもお弁当ではないのですが」

「お前が作るときで、もう一個作る余裕があるときだけでいい。
 一個幾ら払えばいい。
 2000円くらいか?」

「なんでですか……。
 ランチより高いじゃないですか。

 材料費、200円もしませんよ。
 っていうか、利子代わりに差し上げますよ。

 私なんかのお弁当でいいのなら」

「……そうか、ありがとう」
と言う駿佑がちょっと照れたように見えたので、

 幻覚かな、と万千湖は思った。


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