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ささやかなる弁当
今日のお前、なにかが違うな
しおりを挟む「ほう、これがまつぼっくりの家か」
「いえ、たまに落ちている、というだけで」
どんなファンタジーな家かと思われるではないですか、と小さな小さな七福神が鎮座ましましている玄関で万千湖が言う。
駿佑は万千湖の顔を見ながら、
「ところでお前、今日なにか違わないか?」
と訊いてみた。
自分が微妙に緊張しているせいで違って見えるのだろうか。
いや、明らかになにかが違う。
何故かじっと見つめることができないのでよくわからないのだが。
「……なんですかね?」
と呟いた万千湖だったが、特に気にしていないようで、
「お弁当屋さん、すぐそこなんで、このままでいいですかね~」
とパーカーにゆるっとしたパンツという出立ちで言う。
「いいんじゃないか?」
ちょっと新鮮な感じのするその格好のせいで、違って見えたのだろうか、と思ったとき、
「じゃ、ちょっと戸締りしてくるんでお待ちください」
と言って、万千湖は奥に入っていった。
だが、
「あ」
と声が聞こえ、すぐに戻ってくる。
「わかりました。
目が黒いです」
カラコンを外していたようだ。
そういえば、髪は茶色のままだが、目は黒い。
玄関の暖色系の灯りに照らし出された、つるんとした黒い瞳は、今、車で待っているシラユキのようで愛らしく、
「ちょっと入れてきますね~」
と洗面所に行こうとする万千湖をつい止めていた。
「そのままじゃ駄目なのか?」
え? と振り返った万千湖に、
「その……近所なのに、わざわざコンタクト入れるの面倒くさいだろう。
メガネとかで変装したんじゃ駄目なのか」
と訊いてみた。
「いや、それが課長。
私、メガネっ子キャラだったんで」
変装どころか、かけたら元に戻ってしまいます、と万千湖は言う。
そういえば、そうだったな。
ややこしい奴だ……。
「でもここ、地元じゃないんで、滅多なことではバレないかなとは思うんですが」
じゃあ、このまま行きますか、と万千湖は小さな折り畳みの財布を手にした。
だが、そのとき駿佑の頭には、回転寿司屋で会った男や、部長の息子や首から謎のタオルをさげていた雁夜が浮かんでいた。
いや、タオルは、きっとなにか違うものだよな。
M……C……KA
ま、
『MACCHAKA』
抹茶か! とか。
いや、「!」マークはなかったのだが……。
そんな、
「いや、『抹茶か』ってなんですか。
どんな層を狙って作られたタオルなんですか」
と万千湖に言われそうなことを考える。
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