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ささやかなる弁当

今日は暇か?

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 解散して自分たちのフロアに戻ったあと、ロッカールームに向かいながら、瑠美が訊いてきた。

「あんた小鳥遊課長と仲いいみたいね」

 付き合ってるの? と問われ、

「はあ。
 全然そういうのでなくて……」
と万千湖は瑠美に事情を説明してみた。

 この人になら、話しても大丈夫かなと思ったからだ。

 黙っててください、と言ったら、意外としゃべらなさそうな感じがする。

「ええーっ。
 なにそれっ。

 課長と見合いとかっ。
 お茶が美味しく淹れられるだけで、そんないいことがあるのっ?」

 私にもお茶の淹れ方教えてよっ、と瑠美は言う。

「そして、人事の部長に、ぜひ、次男の嫁にとか言われて見合いを勧められて、断られて」

「断られたいんですか……。
 あと部長に次男って、いらっしゃるんですか?」

「知らないわよ。
 そして、断られたそこに、部長に連れられた雁夜課長が見合いの代理として来るのよっ」

 あの、日曜の人とか、黒岩さんはどうなったんですか……と思いながら、万千湖は呟いた。

「……瑠美さん、人生夢いっぱいですね」

 ちょっと気が多いような気もするが。

 誰も彼も良く見えるなんて、ある意味、幸せな人生だ

 その前向きな姿勢とバイタリティで、最後には、なにかすごい物をゲットしてきそうな気がする。

 そのなにかが、なんなのかと問われてもわからないのだが……。

「なにそれ嫌味っ。
 嫌味なのっ?」
と万千湖は瑠美に両頬を引っ張られる。

「イケメンエリート課長をゲットしたやつに言われたくないわ~っ」

「な、なにもゲットなんてしてませんよっ」

「二人で家を買うんでしょうがっ」

「いや、まだ決めてな……」
と言いかけ、万千湖は、ハッとする。

「そういえば、家とかマンション買うと結婚から遠ざかるって言いますよね?」

 不安になってそう言ったが、

「……いや、あんた、課長と住むんでしょうが」
と言われてしまう。

 でも……、シェアハウスですからね、と思いながら、万千湖はチラ、と振り返る。

 経理の前の廊下にも、駿佑の姿はもうなかった。
 


「激辛カレーをみんなで食べにいきました。
 ケーキがおいしかったです。

 みんなで食べに行けて嬉しかったです」

 機械的にスタンプを押す作業をしながら、万千湖は頭の中で、そんな日記を書いていた。

 すると、スマホにメッセージが入ってきた。

 ん? と見ると、駿佑だった。

「今日は暇か」
と入っている。

「暇です」

「なにか食べに行くか」

「はい」

「何処行くか決めとけ。
 仕事終わったら迎えに行く」

「はい。
 ありがとうございます」

 そう打ち返し、万千湖はスマホを机にしまった。

「課長に晩ごはん誘われました。

 なにがいいかな~?
 回転寿司かな~?

 あの鉄板焼きの店もいいし。
 港のレストランお茶しかしてないけど、おいしそうだったな~」
と万千湖はもはや日記ではないものを頭の中で書きながら、スタンプを押し続けた。

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