30 / 125
ささやかなる弁当
幸福の数
しおりを挟む結局、駿佑の車で港まで行き、レストランを眺めながら、ラジオを聞くことになった。
……港に行くのなら、海を眺めたらいいのでは。
何故、レストラン、と駿佑が思っていると、万千湖が電話してもいいですか? と言ってきた。
打つことに疲れたのだろう。
万千湖がかけてくる前に、駿佑がかけた。
「すみません。
ありがとうございます」
と言ったあとで、万千湖が言う。
「そういえば、今日、100均に行ったんですけど」
……お前はもう100均に住んだらどうだ。
「七福神が七つあって、7×7の幸福が訪れそうだなって思ったんですよ。
それで、思わず、その場で拝んでしまったんですけど。
店に置いている間に、そうして拝まれてしまったら、買った人には、その拝んだ残りの幸福しか訪れなくなるんですかね?」
申し訳なさそうに言う万千湖に、
「……一人につき、七つだろうよ」
と言うと、
「あっ、そうなんですかね?
じゃあ、うちの七福神様も課長はまだ一回も拝んでないから、七つもお願いできますね。
課長も今度、拝まれますか?」
と言ってきたので、いや、結構だ、と言おうとしたが、万千湖が、
「今、玄関に飾ってるんです。
ありがとうございます」
と嬉しそうに言ってきた。
……玄関に。
『うちに来て、拝まれますか?』
という幻聴が聞こえたが、万千湖は、
「今度会社に持って行きますね~」
と言う。
「……いや、結構だ」
そのあと、また万千湖のくだらない話を聞く。
「そういえば、冷蔵庫」
と言い出したので、さっき、万千湖からの連絡を待っていないフリをしようと、意味もなく冷蔵庫まで歩いていったことを見透かされた気分になったが。
もちろん、万千湖は超能力者ではなかった。
「冷蔵庫って、ときどき、とんでもないものが入ってますよね~」
入ってそうだな。
お前の冷蔵庫には……。
「入ってますよねって、お前が入れてるんだろ、それ」
「そうなんですよ~。
いや~、この間なんて、急いでてノートパソコンを洗濯機に入れかけて」
もうびっくりしました~と万千湖は笑うが。
冷蔵庫の話ですら、ないようだが……と駿佑は思っていた。
まあ、万千湖の中では、すべてがひとつなのだろう。
冷蔵庫に、まつぼっくりかなにかをうっかり突っ込むことも。
ノートパソコンを洗濯機に突っ込むことも。
まつぼっくり、と思ったのは、この間、部屋にまつぼっくりが何故か落ちていたと聞いたからなのだが。
社内で会うことはあまりないのだが。
仕事から帰ったあと、時折、そんなしょうもない会話をしながら、二人は日曜日を迎えた。
4
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語
菱沼あゆ
ライト文芸
「俺が寝るまで話し続けろ。
先に寝たら、どうなるのかわかってるんだろうな」
複雑な家庭環境で育った那智は、ある日、ひょんなことから、不眠症の上司、辰巳遥人を毎晩、膝枕して寝かしつけることになる。
職場では鬼のように恐ろしいうえに婚約者もいる遥人に膝枕なんて、恐怖でしかない、と怯える那智だったが。
やがて、遥人の不眠症の原因に気づき――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる