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ささやかなる弁当
こういうところが女子に人気なのだろうか
しおりを挟む「おはよう」
朝、駿佑が給湯室の前を通ると、そう呼びかけてくる声がした。
ちょっと戻り、中を覗くと、雁夜が茶色いカップを手に立っていた。
「なにやってんだ?
こんなところで」
「いや~、昨日、うっかりお腹出して寝ちゃってさ。
冷えて調子が悪いから、サプリ飲んでたんだよ」
ははは、と雁夜は笑う。
お腹出して寝ちゃってって子どもか。
デキるイケメンで、温厚な雁夜だが、ちょっぴり天然なところもあり。
そういうところが女子に人気なのだと、綿貫が言っていた。
「そうか。
また弁当でも食べてるのかと思った」
「ああ、白雪さんのお弁当ね」
と雁夜は笑う。
あのとき、ちょっぴり分けてもらった万千湖の卵焼き。
意外にもうまかった。
っていうか、仮にも見合い相手の俺より先に、通りすがりの雁夜の方が万千湖に弁当もらってるのおかしくないか?
と思ったとき、雁夜が言った。
「おいしかったよね、あの弁当。
たまに食べたくなってさ。
自分で買いに行っちゃったよ、冷凍食品」
……確かに冷凍食品まみれだったな。
今、雁夜が何故、先に、と思ったばかりだが。
なんとなく、なんかすまん……と謝りたくなる。
「そういえば、駿佑、うちの部長の勧めで白雪さんとお見合いしたんだってね。
順調そうだって、部長喜んでたけど、そうなの?」
……なにも順調ではないが。
部長とこいつは同じ人事だから、余計なこと言うと、天然なこいつが、つるっとしゃべるかもな、と思い、
「ああ」
と答えておくことにした。
すると、雁夜は笑い、
「でも、駿佑が見合いしてるとこも、デートしてるとこもなんか想像つかないんだけど。
駿佑がデートって、どんなとこ行ったりするの?」
と訊いてくる。
「いや、デートはこれからなんだが」
「二人でまだ出かけたりしてないの?」
「いや……出かけたんだが。
その、回転寿司とか、水族館とか」
「なんだ、デートしてるんじゃない」
と雁夜は笑う。
「水族館行ってなにしたの?」
「……魚見る以外、やることあるのか、水族館」
「……魚見る以外、やることあるのか、水族館」
そう駿佑に言われた雁夜は、ああ、ごめんごめん、と笑ってみせた。
「なんていうか。
駿佑が女の子とデートなんて不思議な感じだから。
帰りとかちゃんと送ってった?」
「ああ。
あ、そういえば、水族館からの帰り、いきなり前の車が曲がろうとしたんで、急ブレーキかけたら。
シラユキが後部座席からフロントガラスに飛んできて、俺の膝の上に落ちたんだ。
お前も気をつけろよ」
……なにをどう気をつけたら。
っていうか、どんな運転だ……と思いながら、
「白雪さん、大丈夫?」
と訊いてみる。
「白雪?
いや、大丈夫もなにも普通に元気だが。
さっきも大金の置き場にまだ迷ってるとか、くだらないこと言ってたな」
「え、大金?」
宝くじだよ、と呆れたように、だが、ちょっと楽しそうに駿佑は言った。
そういう顔初めて見るな~と思いながら、ぼーっと見ていると、
「おっと時間だ」
と駿佑は腕時計を見て行きかけ、また戻ってくる。
「なあ、住宅展示場に行くのってデートかな?」
「知らないけど。
好きな二人で出かければ、デートじゃない?」
と答える。
駿佑は渋い顔をして、
「じゃあ、どれもデートじゃないな」
と呟き、歩いていった。
いや……さっきから語ってた話、どれもこれもデートな気がするんだけどね、と思いながら、水の入ったマイカップを手にしていた。
話している間、飲みそびれていたお腹にいいサプリをくいっとやる。
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