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ささやかなるお見合い
ショートなメール
しおりを挟む夜、八時。
家に帰ったあと。
明日のお弁当の準備、
つまり、冷凍食品はどの種類が何個あるかな? とか、
小分けにした冷凍ご飯は何個あるかな?
とかの確認をしたあと、万千湖はテレビを見ながら、ゴロゴロしていた。
ああ、平和っ。
そして、自由っ。
最高だっ! と万千湖は白いアザラシ型のクッションを抱いて、飽きることなくゴロゴロする。
仕事も家事も終わったあとの、なにをしてもいい、この時間。
なにに使おうかな、とか思っているうちに過ぎてしまったりするのだが。
結局、なにもできなくてもいい。
この時間、なにに使おうかな、とか考えているときが、一番の至福のときのような気がするからだ。
だが、そんなささやかな幸福の時間を打ち破るショートメールが入ってきた。
『終わったぞ。
大丈夫か』
ショートメールだから短いのか。
性格的に短いのか。
寝転んでスマホをかかげ見る万千湖は、天井の明かりの眩しさに、目をシパシパさせながら思う。
でも、この前のショートメールも、
『今日は暇か』
『そうか。
もし、仕事が早く終わったら少し会うか』
と短いものだった。
ショートメールっていっても、いまどきは、もっと文字数打てるんですよ、と思いながら、万千湖は、
『はい』
と返事を打った。
さて、帰るか、と駿佑が鞄を手にしたとき、スマホにショートメールが入ってきた。
白雪万千湖からの返信か、迷惑メールのどちらかだろう、と駿佑は思った。
他にショートメールなんて送ってくる人間はいないからだ。
友人も家族もみな、
「ぽちぽちメール打つとかめんどくさい」
とか言って、ほぼ電話だ。
駿佑は鞄を一旦、デスクに置いて、そのメールを開けてみた。
『はい』
短過ぎだろ、お前……。
万千湖のメールの返事は全部これだった。
『今日は暇か』
『はい』
『そうか。
もし、仕事が早く終わったら少し会うか』
『はい』
そっけなさ過ぎというか、男らしすぎだろ……。
ショートメールとはいえ、いまどき、もっと文字数打てる気がするんだが。
だが、男同士で呑み会の連絡をとっているときと変わらないその感じに、ホッとしてもいた。
これなら、なんとかなりそうだ、と思ったからだ。
あまり、女、女した女性は苦手だからだ。
万千湖は見かけだけは、お嬢様風で、女らしいが。
中身は真逆のようだった。
なんかやること雑だしな、とあの太陽の光に当てて、なんとか読めた黒い消しゴムに書かれた鉛筆の文字を思い出す。
消しゴムを窓に向かってかかげ、何度も向きを変えるという謎の行為をするハメになり、みんなに不審がられた。
そっと渡してきた意味は何処に……と思いながら、万千湖に返信する。
『迎えに行く。
住所を教えろ』
「もう電気消すけど、いいかね?」
ふいにすぐ側で声がして、慌てて顔を上げると、恰幅のいい三田村部長が目の前に立っていた。
慌てて、スマホを切る。
「あっ、すみませんっ。
私がっ」
と急いで電気を消しに行こうとしたが、三田村は駿佑の手にあるスマホを見、にやっと笑って言ってきた。
「彼女かね?」
「い、いえ、違います」
ほんとうに、と思いながらも。
上司の目を気にしながら、女性にメールを打つ日が来るとは思わなかったな、と思っていた。
まあ、モテそうだし、白雪万千湖。
三度も会えばフラれるだろう。
だから、こんな風にメールを打つ機会も、そうないに違いない。
駿佑は、そう思いながら、スマホを鞄に入れ、電気を消した。
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