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ささやかなるお見合い
あなたのその一言が危険です
しおりを挟む万千湖は緊張して、経理の前にいた。
あまり経理の人たちとは目を合わせないようにしよう。
仕事の用事でもないのに来たことがバレるかもしれないし。
「……目を合わせただけでわかるとか。
どんな超能力者だ、経理の人間」
と駿佑に言われそうなことを思いながら。
「失礼致します」
入り口で深々と頭を下げ、万千湖は経理の中に入った。
駿佑は窓に背を向けた席で、ノートパソコンを見ている。
万千湖は彼に近づき、
「すみません。
総務の白雪ですが」
と声をかけた。
駿佑が顔を上げる。
「これ、小鳥遊課長のですよね」
万千湖はコトリと消しゴムを駿佑のデスクに置く。
それは黒い消しゴムだった。
白い消しゴムカバーには、ファンシーなイラスト。
絶対、俺のじゃないだろう……という顔を駿佑はしていた。
かまわず、万千湖はみんなに見えないよう、胸の前で『消しゴムカバーを外してください』という仕草をする。
駿佑は不可解そうな顔をしながらも、外して見ていた。
そこには鉛筆で書かれた万千湖の携帯の番号があった。
「……黒に黒で読めん」
ぼそりと駿佑がもらす。
細い白のペンがとっさに見つからなかったのだ。
小声で万千湖は言う。
「日に当ててみてください。
光ります」
「スパイか……」
と呟く駿佑に、失礼しますっ、と頭を下げ、万千湖はさっさと出て行った。
廊下を歩きながら、
読めるかな?
読めないかな?
まあ、とりあえず、渡したし、と思っていると、雁夜が向こうからやってきた。
駿佑と違い、いつも感じのいい雁夜が笑顔で言ってくる。
「さっきはありがとう。
助かったよ、白雪さん。
お弁当箱洗って、冷蔵庫の上に置いておいたから。
今度なにかお礼するね」
「あ、いえ、手抜きのお弁当ですみません」
そのとき万千湖は、雁夜の後ろから、こちらを見てヒソヒソ言っている女性社員たちがいることに気がついた。
うっ。
雁夜課長、人がいいから気づかなさそうだけど。
あなたに、こんな人目のある場所で、ありがとうと言われるのは、向かいのビルからライフルで狙われているくらいの危険度ですっ。
じゃあ、と言う雁夜に頭を下げたとき、案の定、給湯室に向かっていく彼女らが見えた。
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