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ささやかなるお見合い
日記って、最初だけ張り切って、あとは真っ白になりがちだけど……
しおりを挟む月曜日。
万千湖はご機嫌で会社の廊下を歩いていた。
土曜は、いい写真がたくさん撮れたな。
夜、お気に入りの一枚をプリントアウトして日記に貼って。
何度も眺めて満足したし。
日曜は日曜で楽しかった。
引っ越したばかりの家の周りを散策して、いろんな場所を発見できた。
可愛い小さな花をつけた雑草がたくさんある空き地。
住宅街に突然ある、おしゃれなパン屋さん。
日記に書くことが毎日あって嬉しいな。
っていうか、一日一ページじゃ収まりきらないな~。
ああでも、こういうのって最初だけ張り切って、あとは、真っ白になりがちだっていうから、気をつけようっと。
今の仕事はスケジュール帳の方は特に書くこともなく、真っ白だけど。
日記の方だけ、ぎゅうぎゅうに書かれていてるのが不思議な感じだな。
ああでも、土曜は久しぶりにスケジュール帳に書くことあったっけ。
『お見合い』
……お見合いのシールってなかったんだよな~。
スケジュールシール貼るの好きなのに、と思ったとき、目の前にそれは現れた。
小鳥遊駿佑だ。
今日も端正な顔をして、服装などにも隙がないが。
遊びもない。
そのとき、
「白雪さーん、今日、一緒にランチ行かない?」
とこの間、自動販売機の前でちょっと話した人事の福田鈴加が後ろから話しかけてきた。
ひっ、と万千湖は固まる。
ちょうど、駿佑が自分に気づき、口を開こうとしていたからだ。
人のいる場所で見合いの話などしない方がいい、とか思いそうにもない駿佑は、
「この間の見合いの件だが」
とか、いきなり言い出しそうで怖い。
万千湖がそんなことを考えている間にも、
「このあ……」
と駿佑は想像と一言一句違わぬ感じに言いかけていた。
焦った万千湖は、
『お見合いとか、この場で言わないでくださいっ』
という感じのポーズをとる。
駿佑が口を開きかけたまま止まった。
「白雪さーん」
鈴加が近づいてくる。
『お見合いとか、この場で言わないでくださいっ』
というポーズを万千湖は、またとった。
駿佑は口を閉ざしたが。
こちらの意図が伝わったのか。
自分のポーズが変だったので、呆れて、こいつには関わらないでおこう、と思われたのかは、わからない。
駿佑は鈴加がやってくる前に、すれ違いざま、
「あとで連絡先寄越せ」
とぼそりと言っていなくなった。
ふう……。
なんとか危機は脱したようだ。
なんだかんだで出世頭のイケメン様だからな。
無愛想でとっつきにくい人とは言え、狙っている女子もいるかもしれない。
転職したばかりで敵は作りたくない。
小鳥遊課長と見合いしたことは伏せておかねば、と思いながら、万千湖は振り返る。
誘ってくれた鈴加に、
「行きます、行きますっ」
と微笑みかけた。
実はお弁当を作ってきていたのだが。
まあ、冷蔵庫で冷やしておけば夜まで大丈夫かな、と思いながら。
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