41 / 44
わたし、人の心が読めるんです
なにがはじまりなのか、検証してみよう
しおりを挟む翌朝、行正は思っていた。
それにしてもなぜこいつは自分に人の心が読めるだなんて思ったんだろう?
むしろ俺の方が、単純なこいつの心なら読めそうだが……。
行正はじっと咲子を見つめてみた。
咲子は食事の途中で箸を止め、うつむいている。
きっとこうだな。
『昨夜は、行正さんのおかげで話が途中になってしまいました。
まったく、どうしょうもない旦那さまです』
まあ、そんな感じだろう、と思いながら、行正は咲子に訊いてみた。
「咲子、今、お前は何を考えてるんだ?」
咲子は顔を上げ、言った。
「パーフーって、とうふー、なんですかね?」
……は? と行正は、らしくもなく間抜けな声を出しそうになる。
「いや、豆腐屋さんのラッパの音ですよ」
と咲子は言った。
「あのパーフーって音、とうふーって聞こえるから鳴らしてるんですかね?」
俯いていた咲子は、目の前の冷奴を見つめながら、そんなことを考えていたようだ。
「……豆腐屋に訊いてみろ」
と言ったあとで、行正は付け加える。
「十丁は買うなよ」
「五丁にしときます」
咲子はそう頷いた。
仕事に行く前、玄関先で見送る咲子に行正は言った。
「お前がどうして、そんなことを考えるようになったのか、検証してみよう」
女中たちがいるので、はっきり口に出しては言わなかったが。
咲子には、何故、咲子が人の心が読めると思い込んだのか、調べてみよう、という意味だとちゃんと伝わったようだった。
咲子は、
「あ、ありがとうございますっ」
と感激したように言い、頬を赤らめる。
……ああ、可愛い。
このままお前を眺めていたい。
仕事に行きたくないが。
お前のためにも働かねばな。
そんなことを思いながら、行正は、なにひとつ表情には出さずに、
「行ってくる」
と言って出ていった。
まだ見送っている咲子や女中たちを振り返る。
ルイスだったら、ここで、口づけのひとつもしていくのだろうな。
……おのれ、ルイスッ、と、
「いや、なにがですかっ?
どうしてですかっ?」
とルイスに叫ばれそうな勝手な恨みをぶつけながら、行正は仕事に向かった。
3
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる