大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

文字の大きさ
24 / 44
あなたのことだけわかりません

三条家殺人事件(?)

しおりを挟む
 
 その日、俺以外の男を愛するなら殺す、と思っている男と、

 雑誌で見たみたいに、邪魔なお飾り妻は殺される!
と思い込んでいる妻が玄関で対峙した。

 
「お帰りなさいませ」
と女中たちと頭を下げる咲子に、うむ、と頷きながら、行正は思っていた。

 今日も俺の妻は可愛い。

 ……やはり、誰でもこいつを好きになるだろう。

 ならないとかない。

 そんな奴がいたら、殺す!
と本末転倒なことを思いながら、昼に上官から贈られた抹茶を握り締める。

「奥様と召し上がれ」
と上官夫人がことづけてくれたものらしい。

 だが、そのとき咲子は、

 ――なんでしょうあの抹茶。

 行正さんが急にそんなもの持って帰るなんて怪しい……、
と行正の手にある小さな木箱を見つめていた。

 上官夫人からいただいた抹茶だ、と行正は説明してくれたが。

 まだ咲子は警戒していた。

「食事のあと、俺がててやろう」

 ひっ。
 何故ですかっ?

 今まで行正さんがお抹茶点ててくれたことなんてないんですけどっ。

 そこは愛だったのだが、咲子には、まったく伝わっていなかった。

 緊迫した食事のあと、
「では、茶室に行こうか」
と行正が立ち上がる。

 わざわざ茶室にっ?

 ここで点ててもいいのではっ?

 さらに動揺しながらも、咲子は行正について、庭の数寄屋すきやに移動する。

 二人きりの密室!

 いや、何処も密室ではないのだが。

 母家から離れた空間なので、なんとなく……。

 そのとき、茶釜の側に腰を下ろした行正が木の箱を手に持ち、ふと気づいたように言った。

「……入りの抹茶か」

 ――なに入りのっ!?

 実は行正は、
『金粉入りの抹茶か』
と言ったのだが。

 いろいろ考えすぎて、声まで沈んでいた行正の言葉は低すぎてよく聞きとれず、咲子の中では、

『毒入りの抹茶か』
になっていた。

 よく考えたら、自分で毒を用意したのなら、毒入りの抹茶か、はおかしいのだが。

 ――私のようなものが、こんな素敵な行正さんの妻だとかっ。

 行正さんにとっては、私は最初から邪魔者でしかなかったのではっ?
と思う咲子の中では、もう夫による毒殺決定だった。

 顔を上げてこちらを見た行正の心の声が流れ込んでくる。

『……正式な茶事でもあるまいに、こいつ、なにを緊張してるんだ?』

 いやいやいやっ。
 おばさまがたに囲まれた茶事の方がマシですよっ。

 茶事で毒を盛られることは、あまりありませんからねっ、と咲子は膝の上で両の拳を握り締める。

 咲子の頭の中では、夫に毒殺された自分の話が婦人雑誌に載っていた。

『哀れ! 嫁いですぐに、夫に毒殺された新妻!』
という見出しのそれを美世子と文子が、

「まあ、怖いわねえ」
と眺めている――。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~ その後

菱沼あゆ
キャラ文芸
咲子と行正、その後のお話です(⌒▽⌒)

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

後宮の幻華 -死にかけ皇帝と胡乱な数日間ー

丹羽 史京賀
キャラ文芸
 瞬 青波は大昔に滅んだ王族の末裔で、特殊な術を受け継いでいた。  その術を使い、幼馴染みで今は皇帝となった春霞の様子を見守っていたが、突然、彼に対して術が使えなくなってしまう。  春霞が心配で、後宮で働き始める青波。  皇帝が死にかけているという話を聞くが、相変わらず術は使えないまま……。  焦る青波の前に現れたのは、幽体となった春霞だった!?  こじらせ皇帝×ツンデレ術師=恋愛コメディ

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

処理中です...